「中朝友誼(ゆうぎ)という、そびえる大樹が必ず枝葉を茂らせ、永遠に枯れないと信じている」

 北朝鮮の労働新聞の1面に、習近平(シーチンピン)・中国国家主席の寄稿文が掲げられた。習氏の訪問前日の19日、異例の紙面だった。

 国交樹立から今年で70年。固い絆をうたう美辞麗句が並べられてはいたが、逆にその行間からにじむのは、近年のすれ違いを棚上げしたい思惑だった。

 習氏の訪朝は、2013年の就任以来初めて。国家主席による訪朝は胡錦濤(フーチンタオ)氏以来、14年ぶりだ。金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長にとっては、待望の外交成果といえるだろう。

 両首脳の脳裏には、いずれも米国があることは間違いない。ただし、方向は微妙に異なる。対米交渉で優位を狙う北朝鮮と、対米融和をもくろむ中国。その温度差はぬぐえない。

 もし中国が短期的な対米カードとして朝鮮半島問題を利用するなら、無責任である。東アジア全体の平和と安定のために、北朝鮮の非核化を促す立場を揺るがせてはならない。

 金氏は8年前の権力継承後、核・ミサイル開発などの瀬戸際政策を続けた。その抑制を求めた中国を一時は名指しで批判し、関係が冷え込んだ。

 しかし昨年、初の米朝首脳会談が近づいて以降、訪中を重ねて関係を修復。今年の2回目の米朝会談が物別れに終わった後は初めてロシアを訪問した。

 後ろ盾である中ロとの関係を固めた上で、トランプ氏に譲歩を迫る常套(じょうとう)手段だろう。さらには朝鮮半島を舞台に、中ロ朝と米国との新冷戦的な構図を思い描いているのかもしれない。

 だが中国にとって当面の最大の課題は、貿易摩擦をはじめとする対米関係の沈静化である。今月末の大阪での米中首脳会談を前に、米中が協調できる朝鮮半島問題の重要さを習氏は訴えようとしたのではないか。

 寄稿文のなかで習氏は、北朝鮮の経済発展の可能性や、対話による問題解決を強調した。核を放棄すれば経済の飛躍が望めるとの誘い水は、トランプ氏が最近多用する文言でもある。

 中国が米朝間の仲介役として本腰を入れるならば歓迎すべきだが、真意は見えない。逆に、国連安保理決議の制裁を弱めるような対北支援に動くならば、非核化を願う国際社会の目標達成は遠のくだろう。

 北朝鮮による大量破壊兵器開発がもたらすアジアの環境悪化は、すべての国の安保・経済両面の利益を害する。米中は覇権争いのなかに朝鮮半島問題を位置づけることは控え、あくまで非核化の実現をめざすべきだ。そのための共通理解を、大阪で確認してもらいたい。