(社説)カジノ構想 先送りを再考の機会に

社説

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 これも、選挙前は波風を立てず、不都合な話から国民の目をそらそうという戦術なのか。

 2020年代前半の開業を見込む、カジノを含む統合型リゾート(IR)について、政府は予定していた手続きを次々と先送りしている。

 開業には、まず規制・監督機関となる「カジノ管理委員会」を設け、国土交通相がその管理委の意見を聞いて「基本方針」を策定・公表しなければならない。当初は、この通常国会に管理委のメンバー5人の人事案を提出して同意を得て、夏に基本方針を示す段取りといわれていた。ところが、いずれも秋以降に持ち越しとなった。

 世の中にはギャンブル依存症の拡大などを心配する声が依然として強い。参院選前に動くのは政府与党にとって得策ではない。そう判断したとみられる。

 もとよりカジノの開設を急ぐ筋合いはない。だが問題にふたをし、議論を嫌い、最後は数の力で押し切ることを、この政権は繰り返してきた。今後の動きを注視し続ける必要がある。

 「基本方針」には、IRの運営事業者や地域の施策などに関する基本的な事項が書かれる。自治体はそれを踏まえて、カジノ収益の活用法や暴力団の排除策などを盛り込んだ案をつくって、認定を申請する。

 政府の描く観光立国は実現するのか。マネーロンダリングなどの懸念を拭えるのか。見極める大切な手続きとなる。

 大阪府・市は今春、基本方針の公表を待たずに、IR事業者に計画案を提出するよう求めた。25年の万博の前に開業にこぎつけたい思惑が背景にある。一方、IR誘致の是非を検討している横浜では、先月、地元の港運協会がカジノ抜きの独自の再開発構想を示した。住民投票の実施にも触れている。

 今回の作業の先送りは、カジノについて改めて考えを深める良い機会だ。地域の真の活性化につながるのか、くらしにどんな影響が及ぶのか、各自治体は住民とじっくり意見を交換する場を設けてはどうか。

 昨年7月、西日本豪雨災害のさなかに、政府与党はIR実施法案の審議を強行した。いきおい法案よりも目の前の災害対応に多くの質疑時間が割かれた。その結果、世界中でカジノが飽和状態にあるなか、利用客は政府がもくろむ外国人ではなく日本人になるのではないか、依存症対策は万全か、などの疑問は今も解消されていない。

 IRは投資額が大きく、工事も長期にわたる。人々の不安や疑念を置き去りにしたまま歩を進めれば、将来に禍根を残す。国も自治体も、その自覚を持たなければならない。

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