(社説)女子サッカー 明日を切り開くW杯に

社説

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 サッカーの女子ワールドカップがフランスで開かれる。

 なでしこジャパンが米国を破って世界一に輝いたのは、前々回、8年前の大会だった。東日本大震災後の沈鬱(ちんうつ)な空気が覆う列島に、明るい希望と活力をもたらす初優勝だった。

 4年前は決勝で米国に雪辱を許したが、相手の大型選手の力と速さに組織力で対抗する姿は強い印象を残した。今大会も変わらぬ活躍を祈りたい。

 女子サッカーの歩みは決して平坦(へいたん)ではなかった。1989年にリーグが結成されたものの、バブル崩壊を経て90年代後半には企業の撤退が相次いだ。

 一時は消滅寸前まで追い込まれたが、地元自治体や男子のJリーグなどとの連携を進めて、立て直しを図る。懸命の取り組みとW杯での好成績を受けて、志す選手も増え、リーグは現在3部制にまで拡大した。

 それでも選手を取り巻く環境は厳しい。昨季のリーグ1部の観客数は1試合平均で1414人。W杯優勝の11年こそ2796人だったが、苦戦が続く。1部に所属する選手250人のうち、サッカーで生計を立てているのは1割にとどまり、多くは別の仕事やアルバイトをしながらプレーしている。

 特効薬はない。地道にすそ野を広げ、子どもからお年寄りまで女子サッカーを楽しむ層を増やしていくしかない。最近いくつかのクラブや高校・大学が、サッカー留学のチャンスを設けたり、フットサルリーグに参加したりして、可能性に挑戦しているのは意義深い。

 代表チームも新しい構えで今大会に臨んでいる。ひとつは、初めて合宿段階からメンタルトレーナーを同行させていることだ。選手の不安の解消に努め、1カ月に及ぶ長丁場でも実力を発揮できる環境を整えようという試みだ。

 指揮をとる高倉麻子さんは、なでしことしては初の女性監督だ。女子選手は月経への対応などの難しい体調管理が求められる。スポーツ界でもセクハラ被害が絶えない現実を見ると、女性指導者の育成・拡充は喫緊の課題だ。また、経験と実績を積んで代表監督に就任するというロールモデルができれば、選手のモラールもいっそう高まることが期待される。

 「サッカーは男のスポーツ」と考える人はもはやいないだろう。選手や監督だけでない。欧州では女性審判が男子の試合の笛を吹く姿も珍しくない。

 時代と国を超えた女性たちの努力が、いまの姿をつくった。フランスでのなでしこのプレーもまた、明日のサッカー、未来のスポーツを切り開くものになると期待したい。

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