(社説)トランプ関税 「米国第一」の身勝手さ

社説

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 トランプ米大統領が、隣国メキシコからの全輸入品に5%の追加関税をかけると表明した。不法移民対策が不十分だというのが理由だ。米国への移民流入を止めなければ、段階的に最大25%に引き上げるという。

 根拠としたのは、1977年にできた国際緊急経済権限法だ。国家の非常事態のときに、金融制裁などをかけられる権限を大統領に与えるものだ。トランプ氏は声明で、「米国は危険な不法移民に、何十年も苦しめられてきた」と主張した。

 「安全保障」や「非常事態」を口実に追加関税をふりかざせば、あらゆる外交問題を解決できると考えているのか。言語道断と言わざるを得ない。すみやかに撤回すべきだ。

 不法移民対策は、トランプ氏が先の大統領選で掲げた公約の柱の一つだ。しかし、メキシコ国境の壁建設については米国内でも反対が根強く、2月には国家非常事態の宣言にまで踏み切ったものの、思うように進んでいない。問題を放置できないという政権の事情はあるだろうが、またもや非常事態だとして追加関税をかけるのは、権限の乱用というほかない。

 米国にとって輸入額で中国に次いで2位のメキシコに巨額の関税をかければ、米経済への打撃は大きい。トランプ氏の判断に、米議会や産業界も否定的だ。メキシコを対米輸出の拠点にしている日系の自動車関連企業にも、影響は及ぶ。

 メキシコは「米国第一主義は誤りだ」と批判したうえで、関税回避に向けた交渉に入った。冷静な対話による解決が求められる。

 米国はメキシコと、カナダも含めた新しい貿易協定に昨年署名したばかりだ。交渉の過程で米国は、前身のNAFTA北米自由貿易協定)の破棄までちらつかせ、メキシコが妥協を重ねて合意に至った。その発効に向けて手続きを進めているさなかに、通商とは無関係の移民問題を理由に追加関税を持ち出すとは、何のために新協定を結んだのだろう。

 米国は中国と制裁関税をかけあっており、今月、第3弾の税率引き上げが本格的に始まった。第4弾も視野に入るなか、対立を終わらせるには、二国間の協議を前進させるしかない。

 米国は日本や欧州連合とも、貿易交渉を続けている。

 しかし結んだばかりの協定を無視するような行動を、一方的にとるのであれば、話し合う意味などない。

 トランプ氏の身勝手な言動は繰り返し米国の信認を傷つけてきた。このままでは、あらゆる交渉が成立しなくなる。その深刻さに米国は気づかないのか。

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