(社説)NHK同時配信 改革と理念を示さねば

社説

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 「公共メディア」とは何か。民間でも国営でもない「公共」の番組とは何か。すぐ答えが思い浮かぶ人は少ないだろう。

 残念ながら、当のNHKからも腑(ふ)に落ちる説明が聞こえてこない。予算などを承認する国会での論議も低調なままだ。

 そんななかで、改正放送法が成立した。NHKによるインターネットでの常時同時配信が認められることになった。

 放映中のテレビ番組をパソコンやスマートフォンでも見られる。東京五輪パラリンピックに間に合うよう、今年度中の開始をめざすという。

 ネットの役割が飛躍的に増す時代だ。大切な情報や教養、娯楽をもたらす番組が電波だけでなく、ネットでも視聴できることは暮らしの向上に資する。

 ただ、NHKは受信料を徴収して成りたつ組織だ。その役割と規模について、不断の論議と国民の理解が欠かせない。ネットに本格進出するうえでの使命と理念が、広く理解できる形で定義づけられるべきだ。

 常時同時配信の方針は約10年前に打ち出されていた。曲折をたどった背景には、放送界に広がる財政事情の格差がある。

 民放の広告収入は頭打ちの一方、NHKの収入は今や7千億円を超す。同時配信でNHKが独走すれば、民放とNHKが共存して多元的な価値を提供する機能が損なわれかねない。

 そのため、NHKはネットを「放送の補完業務」と位置づけたうえ、受信料の値下げも決めた。だがそれでも、肥大化の懸念を拭うにはほど遠い。

 地上波衛星放送に4K・8Kも加わったテレビの電波をどう整理するのか、ネット配信の予算規模をどう制限するか、受信料体系をどう見直すか――そうした喫緊の改革をめぐる答えはまだ示されていない。

 放送・通信の融合に向けた制度設計の詳細はこれからだが、前提となるのは何よりも番組への視聴者の信頼である。

 NHKの政権との距離については、批判が絶えない。森友問題、米軍普天間飛行場移設の報道での問題が指摘されたほか、先月は政権寄りとされる専務理事の復帰が物議を醸した。

 2人の経営委員が採決を棄権する異例の事態となったが、上田良一会長は「適材適所」と型どおりの説明に終始した。視聴者の疑問に誠実に答えようとしない姿勢は、それこそ公共性にそぐわない。

 ネット空間では、無限に飛び交う情報の信頼性が担保されていない。NHKにとどまらず、報道に携わるメディアは改めてネット上でも「自主自律」「正確」「公平・公正」の原則を肝に銘じる必要がある。

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