(社説)英首相辞任へ 強行より熟慮の政治を

社説

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 首相が入れ替わっても、英国が直面している混迷は変わらない。新たなリーダーのもとで、議会と国民が改めて進路を熟考する猶予期間を設けるのが賢明ではないか。

 メイ首相が辞意を表明した。与党保守党の党首を6月7日に退き、党首選で後任が決まった時に首相の座を去るという。

 政権に就いて3年。欧州連合(EU)からの離脱を進める重責は果たせなかった。昨年秋にEUとの協定案をまとめて以降は何の進展も築けなかった。

 故サッチャー氏以来の2人目の女性首相だったことを「誇りに思う」と語りつつ、無念さを隠せなかった。与野党から高まる辞任の圧力に屈した形だ。

 確かにメイ氏の手法は、頑迷というしかなかった。与党内の内向き論議に終始し、野党を突き放す。議会の採決を先延ばしし、危機感をあおる。そんな手練手管もすべて失敗した。

 ただメイ氏の退陣は必然とはいえ、混乱の責任を彼女だけに求めるようでは前途は暗い。

 離脱をめぐり内部分裂している保守党、排外的な主張で大衆扇動を続ける強硬派、党利優先に明け暮れる野党労働党……。その複合的な要因が、英国政治の機能を著しく劣化させていったのである。

 国民の政治不信は深い。今月にあった地方選挙では保守党が大敗し、労働党も議席を減らした。二大政党に向けられる目は厳しさを増し、世論も離脱か残留かで分断されたままだ。

 新しい首相は、メイ氏と比べて強硬な離脱派が就くとの見方がある。だが、いまの英国に必要なのは、強行突破型の政治ではない。

 秩序のない離脱がもたらす不利益を冷静に説き、ばらばらになった議員や国民をまとめる。そのための辛抱強い対話の積み重ねこそ求められている。

 EUとの合意では、10月末が新たな離脱の期日である。だがその準備が整う可能性は限りなく低い。メイ氏がEUとまとめた協定案を英議会は3度否決したが、代案はない。

 合意なき離脱は絶対に避けねばならない。現実的には期日を再延期するしかない。来年末までのような長期の延期を探るのは一考に値する。

 メイ政権の3年で見えてきた離脱に伴う様々な問題を踏まえて、英国が未来像について十分な国民対話を進める。それには相応の時間が必要だろう。

 キャメロン前首相から続く保守党主導の政権下で混乱が深まった以上、新首相は国民に信を問う覚悟をもたねばなるまい。国民本位の政治を立て直すときであり、機が熟せば再度の国民投票も視野に入れるべきだ。

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