(社説)原発被災地 住民本位の将来像を

社説

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 東京電力福島第一原発がある福島県大熊町の一部で、避難指示が解除された。未曽有の原発事故から8年余り。ようやく住民が戻れるようになり、まちの再生へ一歩を踏み出した。望む人が地元で暮らせるよう、行政は環境整備を粘り強く進めなければならない。

 ただ、原発被災地の復興の道のりは多難だ。

 今回避難指示が解除された地域で住民登録するのは400人弱で、町全体の4%。実際に戻ったのはその一部で、町民の大半は避難を余儀なくされたままだ。まちづくりは少数の帰還住民と町職員、以前から特例で住む約700人の東電社員らが担うことになる。

 住民が長期の避難を強いられた被災地の自治体は、帰還を復興の土台にすえてきた。しかし、めざしたような成果をあげている、とは言いがたい。

 大熊町の周辺市町村でも、帰還は思うように進んでいない。2年前に避難指示を解除された浪江町や富岡町の場合、居住者は千人弱で、事故前の1割に満たない。住民の意向調査で、「戻らない」との回答が半数ほどを占めたところも目につく。

 被災者の多くは、避難先で新たな生活基盤を築いた。地元では医療や商店などの生活機能が十分整わず、廃炉作業や放射能への不安も、帰還をためらわせる壁になっている。

 政府と関係自治体は、従来の取り組みのどこが現実とずれているのかを検証すべきだ。「箱もの」の施設整備や新産業をつくる構想などに多額の税金を投じる一方、もっとも大切な住民の生活再建への支援が手薄になっているのではないか。

 これまで市町村がそれぞれの計画で復興に取り組んできたが、進み具合はばらつき、課題も多様化している。実情を見つめて被災地全体の将来像を描き直し、必要な対応を改めて考える時期ではないだろうか。

 医療・商業施設の整備、介護人材の確保、雇用創出などで、市町村ごとに対応しても限界がある。広域連携が重要だろう。コミュニティーの再生では、NPOや専門家ら民間の力が欠かせず、廃炉や復興の仕事で来た新住民の定着を促す努力も必要だ。関係市町村と福島県は、人口が少なくても地域社会を維持する道筋を探ってほしい。

 そこで大切なのは、住民の多様な生き方や思いをくみ取ることだ。「当面戻らないが、地元とのつながりは保ちたい」という声は多く、避難先と行き来する「通い復興」の人もいる。帰還、避難継続、移住のそれぞれを支えつつ、できるだけ多くの人に参画してもらうことが、新たな地域づくりの力となる。

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