(社説)日米首脳会談 「蜜月」の乏しい内実

社説

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 首脳同士の親密ぶりを強調されても、難題をめぐる具体的な議論や実際の進展を伴わなければ、空しさだけが残る。

 安倍首相がホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した。昭恵夫人とともにメラニア夫人の誕生日を祝い、トランプ氏とのゴルフも楽しむ。

 トランプ氏は5月末に新天皇即位後初の国賓として来日し、6月末にも大阪での主要20カ国・地域(G20)首脳会議のため日本を訪れる。それに先立ち、今回、異例の3カ月連続となる首脳会談を設けた。

 しかし、伝えられる会談内容からは、首相の強いメッセージはうかがえない。

 焦点の貿易交渉も、事前の担当閣僚間の合意をなぞる形で終わった。会談の冒頭、トランプ氏が5月末の来日時までの早期合意に意欲を示したのは想定外だったようだが、振り回されてはならない。環太平洋経済連携協定(TPP)など多国間の枠組みでの合意を背に、公正で自由な貿易の原則のもと、粘り強く交渉すべきだ。

 欧州から北米への首相の長期外遊は、G20大阪会合の成功に向けた事前調整の狙いもある。昨年のG20では、米国が自国第一主義を押し通し、首脳宣言から初めて「反保護主義」の言葉が消えた。

 国際協調の枠組みに背を向けるトランプ氏を説得しなければ「蜜月」の意味はない。

 安全保障でも、議論すべき課題が置き去りにされた。

 会談の直前、トランプ氏は通常兵器の国際取引を規制する武器貿易条約(ATT)への署名撤回を発表した。日本も採択に主導的な役割を果たしたと自負する条約である。その意義を説き、翻意を促すことが出来なかったのか。

 トランプ政権が中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明し、中国、ロシアとの軍拡競争の懸念が強まっている。この状況にどう対応するかも議論せねばならない。

 トランプ氏は、今回も「日本は途方もない数の軍事装備品を米国から購入している」と歓迎したが、兵器を買い込んで米国の歓心を買うのは、健全な同盟関係とは言いがたい。

 米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Aの墜落事故の原因究明や、米政権内で検討されている在日米軍駐留経費の大幅な負担増なども意見交換されなかったという。いったい、何のための首脳会談だったのか。

 軍事技術が急速に進展し、安全保障と経済がリンクする米中対立の時代に、いかに地域の安定を保つのか。頻繁に顔を合わせるだけでなく、首脳らしい本質的な議論を望む。

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