(社説)スリランカ テロに抗し国民融和を

社説

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 祈りを捧げる静寂が、朝食を楽しむ家族の笑顔が、一瞬で吹き飛ばされた。

 インド洋の島国スリランカで起きた連続爆破テロの死者は300人を超えた。卑劣な行為を断じて許すことはできない。

 復活祭で信者が集まるキリスト教会や外国人客の多いホテルが狙われた。宗教や民族の分断を意図したと見るのが自然だ。

 政府は、国内のイスラム過激派組織「ナショナル・タウヒード・ジャマート」(NTJ)が関与したテロだと発表した。

 ただ、NTJは過去に仏像の破壊などは行ったが、大規模なテロは起こしていない。スリランカではキリスト教徒もイスラム教徒も少数派で、両者の間に目立ったあつれきはなかった。現時点では不明な点も多く、捜査による解明が急がれる。

 当局は国際テロ組織の支援があったとみており、国際刑事警察機構ICPO)も捜査に協力する。各国はテロ組織についての最新の情報提供など、スリランカ政府に協力すべきだ。

 心配されるのは、イスラム教徒への偏見が強まることだ。

 スリランカのイスラム教団体は事件に対する非難声明を出した。それでもイスラム教徒の閣僚への非難や、モスクへの火炎瓶投入などがおきている。

 今回の事件で国民の対立が激化すれば、実行犯の思うつぼになる。政府は非常事態を宣言したが、国民への融和の呼びかけを強めねばならない。

 この国では2009年まで26年間、内戦が続いた。人口の7割を占める仏教徒シンハラ人に対し、2割弱のヒンドゥー教徒タミル人が分離独立を求め、7万人超が犠牲になった。

 それから10年。社会と経済の再建が進められてきたが、最近は仏教徒の間で宗教ナショナリズムが高まっていた。昨年春には、イスラム教徒の商店への破壊、放火などが相次いだ。

 こうした不穏な空気に拍車をかけたのは、政治の混迷である。昨年から大統領派と首相派が主導権を公然と争っていたのは実に不毛な事態だった。

 今回のテロでも、事前情報が政府機関内で共有されていなかったという。政権は国民の安全を守る重責を考え、無益な政争に終止符を打つべきだ。

 過激思想は、分断や格差などのひずみのある社会に入り込みやすい。近年は、宗教の名を借りて憎悪と対立をあおる危険な考えがインターネットなどで世界にふりまかれている。

 軍事的手段だけで過激派の活動を根絶することはできない。治安情報や金融・武器取引の監視などで多国間の協調を向上させるよう、6月の大阪でのG20首脳会合でも確認したい。

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