第1回5秒で戦闘機が空へ 空母化した護衛艦で記者が見た「歴史的な瞬間」
快晴の空のもと、海上自衛隊の護衛艦「かが」が、米カリフォルニア州サンディエゴ沖を航行していた。
飛行甲板上では、米空母の甲板で作業する要員「フライトデッキ・クルー」たちが慌ただしく動き回っている。担当ごとに異なる7色のシャツを着ていることから「レインボーギャング」と呼ばれる集団だ。
甲板では、米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bが、エンジンの出力を上げながら発艦の許可を待っていた。カメラを構えていると、F35Bの「キーン」という高音のエンジン音が、耳栓越しでもはっきり聞こえた。
やがて、黄色いシャツを着たクルーが親指を立てた。「発艦OK」のサイン。米海軍パイロットのエリート養成学校を舞台にした大ヒット映画「トップガン」でもおなじみの光景だ。
滑走が始まる。F35Bは甲板中央付近から急加速しながら機首を上げると、約5秒で艦首付近から宙に浮き上がった。発艦した機体が、真っ青な空へ吸い込まれていった。
取材したのは、サンディエゴ沖で実施された艦上運用試験(DT)の最終日である昨年11月6日。かがは海自最大の護衛艦「いずも」型の2番艦、F35Bは数百メートル程度の短い滑走で離陸し、垂直に着陸できる戦闘機(STOVL機)だ。この日、かがからF35Bが発艦する様子がメディアに初めて公開された。
いま政府は、「いずも」と「かが」を改修して戦闘機を運用できるようにする「空母化」を推し進めている。計画が決まったのは2018年、安倍政権の時だ。
先に一部改修に入ったいずもに続き、かがは2022年3月から造船大手・ジャパンマリンユナイテッド(JMU)呉事業所のドックに入り、空母化に向けた「特別改造工事」を続けてきた。
甲板の一部が戦闘機の排気熱に耐える仕様になり、発着艦のための標識が塗られ、艦首の形も台形から長方形に変わった。米海軍の強襲揚陸艦のような外観だ。
空母とは「航空母艦」の略称。戦後、自衛隊は空母を保有してこなかった。それがなぜ、いま必要なのか。「空母化」計画はどこまで進み、実際の任務に向けて残る課題は何か。
その「現在地」を見極めよう…