アジア系スター生む米拠点レーベル88rising 日本勢も注目
2019年。米ビルボードの総合アルバムチャートで日本のアーティストの作品が13位になり、「なぜ国境を超えて支持されたのか」を取材したことがある。
すると音楽関係者から、「同じチャートで昨年、別の日本出身のミュージシャンも好成績を挙げていた」と教えられた。米国を拠点に活躍するシンガーJoji。デビューアルバム「BALLADS 1」が3位を記録していた。
所属レーベルは、米国拠点の「88rising」。調べると、このチャートで18 年にアルバム「Amen」が18位になったインドネシア出身のラッパー、リッチ・ブライアンも所属しており、アジアにルーツがあるアーティストの音楽の発信に力を入れるユニークなレーベルだとも知った。
88risingはもともと、音楽レーベルではなかった。
CEOで日系アメリカ人のショーン・ミヤシロさん(43)が15年に立ち上げ、周囲にいたアジア系のクリエーターの才能に光を当てるため、一緒に動画を作って配信したのがはじまりだ。その後、アジアのアーティストの世界進出を支える存在として音楽シーンに影響を与えるようになった。
音楽ジャーナリストの柴那典さんは「2人(Jojiとリッチ・ブライアン)がブレークしただけでなく、レーベルのファンのコミュニティーが育った。米国に暮らすアジア系の人々が、自分たちを代表していると感じられるカルチャームーブメントになった」とも評する。
コーチェラの特別ステージに新しい学校のリーダーズ、YOASOBIも
そんな存在と、日本のミュージシャンが交わる場面が近年増えている。
今年4月、米カリフォルニア州で開かれた米国最大規模の野外音楽イベント「コーチェラ・フェスティバル」。ここで「88rising Futures」と題した、レーベルによる特別ステージの時間が設けられた。
ジャクソン・ワンやBIBIら、アジアにルーツを持つミュージシャンが次々に出演。日本勢からは、コーチェラに単独でも出演した「新しい学校のリーダーズ」「YOASOBI」がこのステージに立ったほか、「King&Prince」の元メンバーの平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太による「Number_i」や、ラッパーの「Awich」も登場した。日本勢では「新しい学校のリーダーズ」がレーベルに所属している。
その模様はYouTubeで世界に配信され、日本のテレビでも紹介され話題となった。
実は、コーチェラでは22年にも88risingの特別ステージがあった。リッチ・ブライアンや韓国の人気グループ2NE1のメンバー、ジャクソン・ワンらに交じり、宇多田ヒカルも出演した。音楽プロデューサーの脇田敬さんは「世界に注目されるコーチェラという場で、アジアの多彩な音楽を『アジアンポップ』として編集してみせた」と評価する。
「アジアのコンテンツを世界に」 最初は動画制作・配信から
立ち上げ当時の88risingは、「アジアのコンテンツを世界に発信する」ため、ミヤシロさんが「面白い」と感じるクリエーターに連絡し、一緒に動画を作って投稿していた。
「当時、アジア人がつくるクリエーティブなコンテンツに光を当てるメディアプラットフォームがまだなかった」とミヤシロさん。「僕や仲間が心から面白いと思ったものだけを採算を一切考えずにアウトプットし、かなりバズったコンテンツも多かった。心から楽しんでやっていた当時のことが今も会社のDNAとして残っている」という。
次に始めたのが音楽レーベルの運営だ。「楽曲をリリースする方法も分からなかったが、周囲のクリエーターが音楽活動を始めて、そのコンテンツがバズった。気がついたら、まわりにミュージシャンが増えてきた」
18年からは、自分たちで野外音楽フェスティバル「Head In The Clouds」(HITC)を、米国やアジアで開いてきた。
BTSを始めとするK-POP勢の台頭や、アジア人キャストによる米国映画「クレイジー・リッチ!」のヒットなどで、アジア系の人々によるカルチャーへの関心が高まっていた時期。88risingは「DIY精神」(ミヤシロさん)で、存在感を発揮した。
「今はアジアに関係するコンテンツがとても多く、僕たちはその一つでしかないが、流行を考えすぎずに、自分たちのブランディングがぶれないよう『DIY精神』にフィットする取り組みを続けたい」という。
そんなミヤシロさんの目にいま、日本のアーティストは魅力的に映っている。
近年、J-POPのアーティストたちの海外進出の動きが盛んになってきました。アジア系のスターを生み出してきた88risingの手法には、日本の音楽関係者も注目しています。記事後半では「新しい学校のリーダーズ」の所属事務所社長の中川悠介さんと、「YOASOBI」のプロデューサー屋代陽平さんのコメントもご紹介しています。また、今回のコーチェラの特別ステージではNumber_iの出演も話題となりました。ミヤシロさんには、彼らの魅力についても聞きました。
「1組ごとに音楽性が全く違…
- 丸山ひかり
- 文化部次長
- 専門・関心分野
- 美術、音楽、表現の自由
- 【視点】
日本のポピュラー文化産業が直面する課題は多岐にわたりますが、現在もっとも重要な課題は海外進出であると考えられます。日本の各ジャンルは、豊かな国内市場に支えられ豊富なコンテンツを生み出してきました。しかし、国内市場での成功が逆に海外進出の機会
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