AI(人工知能)に学ばせる音声データを認証する団体が来月にも設立される。25日に会見した関係者によると、国内初。AI開発者は、認証を受けた質の高い安全なデータを購入でき、声優らにも対価が支払われるようになる。データの追跡や透明性の確保につながるため、AI開発と知的財産の保護という点からも先駆的な例となりそうだ。
この団体は一般社団法人「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS(アイラス))」。中心メンバーは研究者や弁護士で、システム開発などを経て来年、本格始動する。
AIと知財保護をめぐっては、内閣府の有識者検討会が5月、中間とりまとめを発表した。そこでは、著作権法などの法令以外に技術や契約といった視点を組み合わせることを強調している。
一方で、著作権法では保護されない声優らの声については、今後の課題として、他の法律でどの程度保護できるのかを整理するとした。ただ、すでにAIに声優らの声を学習させ、歌わせる「AIカバー」などが個人の趣味を超えてネット上にあふれており、声優らからは、対応を求める声があがっている。AILASの事業は、法整備を待つだけでなく、「契約」によって声優の利益を守ろうとする取り組みの一環といえる。
AILASの仕組みはこうだ。声優個人や事務所がまとめた音声データを確認して「登録認証」のラベルをつける。音声データの出どころの透明性や権利関係についてお墨付きを与える形となる。これにより開発者側は、安心してデータを購入でき、声優側も対価を得られる。
また、AI開発者の作った学習モデルや、モデルを元に作った製品にもラベルを与える。一般の利用者も安心して音声AIを使うことができる。
海外では、良質な記事データを大量に管理する報道機関とAI開発者による契約が次々と結ばれている。例えば、米オープンAIは米AP通信や仏ルモンド、英フィナンシャル・タイムズなどと提携している。AILASもこういったフェアトレードの構築を目指すが、個々の契約には立ち入らず、関係団体に任せるという。
声優の権利を訴えてきた日本俳優連合(日俳連)などもすでに賛同しており、会見には声優たちも参加した。声優の甲斐田裕子さんはAILASを通じて「著作権や本来の契約のあり方に関する啓発ができれば」と期待を寄せた。ただ、良質な音声データを学習したAIに将来仕事が奪われる可能性を懸念している声優も多いという。(田島知樹)