拡大する写真・図版イラスト・山本美雪

わたしが「犯人」にされたとき(前編)

 2023年暮れ、東京・霞が関にある東京地裁8階の小さな法廷。証言台の前にいた被告の女性(51)の目から、涙があふれ出た。ずっと求めてきた言葉が、判決として言い渡された。

 「主文 被告人は無罪」

 閉廷後、法廷を出てすぐ、女性弁護人と抱き合った。身に覚えのない罪で起訴されてから、闘い続けた日々がようやく終わった。

突如かかった1本の電話

 始まりは22年1月、女性の携帯電話にかかってきた電話だった。

 「聞きたいことがあるので警察署に来て欲しい」

 地元の警察署からだった。

 女性は東京都内で夫と2人で暮らし、日中はアルバイトをしている。犯罪や裁判とは縁遠い人生を送ってきた。警察が自分に聞きたいことなど、思い当たる節がなかった。

 「どういう話なんですか」と問うと、「この電話では言えないです」と警察官は返してきた。腑(ふ)に落ちず、「簡単でいいので」と求めると、こう説明された。

 「あなたが住んでいるマンションの駐輪場にあった自転車のカバーが、カッターのようなもので切られていた。あなたが防犯カメラに映っているので、話を聞きたい」

 心当たりはなかった。確かに駐輪場があり、普段、カバーがかかった自転車が1台とまっているが、切ったことなどない。

 説明すればわかってくれると思い、その週の土曜日午前10時ごろに警察署へ赴いた。

警察官「今は任意だが……」

拡大する写真・図版器物損壊事件の被告になった女性=2023年12月、東京都内、田中恭太撮影

 取調室に案内された。机の向かいに40代ぐらいのベテラン風の男性警察官が座った。若手の女性警察官も立ち会った。

 「防犯カメラに、あなたがカバーを切っている姿が映っている」

 男性警察官はそう言い、さらに「カバーを切るためだけに家から出てきて、家に戻っている」「証拠として残っている」とも説明した。

 それでも、やはり心当たりはなかった。

 駐輪場に自転車が乱雑に止められていたとき、並べ直してあげることはあっても、カバーを切ることなんてしない。並べ直すのもゴミ捨てや外出のついでで、そのためだけに家を出ることはなかった。

 男性警察官は「12月中~下旬」の話という。どの日のことか、ピンとこない。否定し続けた。

 やがて男性警察官に言われた。

 「今は任意の取り調べだが、認めないと粛々と手続きを進める」

説明を、ひねり出した

 逮捕されるんだ――。はっきり…

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