鳥獣被害対策で捕らえたイノシシを「大崎ジビエ」として売り出そうと、宮城県大崎市が、廃校になった小学校の校舎を食肉処理加工施設に改修した。4月下旬のジビエ販売開始を目指し、加工が進められている。

 山あいに田んぼが広がる大崎市岩出山の真山地区には、993人(3月1日現在)が暮らす。周辺4地区と合わせた岩出山地域全体での高齢化率は、昨年10月1日時点で45%。旧市立真山小学校は2018年、他の4地区の小学校と統合され、廃校となった。

 残った校舎が昨夏、食肉処理加工施設に生まれ変わった。市は総事業費約2億2600万円をかけ、2階建て校舎を改修し、関連施設も整備。うち約1億1570万円は国の鳥獣対策交付金を充てた。東北初のイノシシ専用の加工施設だ。

 校舎1階の1、2年生の教室が「剝皮(はくひ)室」「体内洗浄室」「加工室」「包装室」に区切られている。イノシシをつるすクレーンや冷蔵庫と冷凍庫、スライスやミンチに使う機械を備え、加工から保存まで完結できる。合同会社「ジビエの郷おおさき」(同市)が指定管理者となり、1月から稼働している。

 背景には、イノシシによる深刻な農作物被害がある。市によると、22年度のイノシシによる被害額はコメを中心に396万円。鳥獣被害計542万円の7割超を占める。18年度から5年間のイノシシ被害は計2221万円で、例年、被害額の6~9割がイノシシによってもたらされている。

 イノシシの生息域はかつて、宮城と福島の県境付近が北限とされていた。県自然保護課によると、12~16年度の大崎市での捕獲頭数は年間0~4頭で推移していたが、17年度に59頭と激増。20年度には749頭を記録した。22年度は470頭だった。

 市によると、23年度は市が把握する分で1月末時点で717頭を捕獲した。市農村環境整備課の担当者は「温暖化で生息域が北上しているのでは」とみる。

 被害が深刻な真山地区で、市が旧真山小の活用を住民に打診し、受け入れられた。豚熱対策や衛生管理の研修を受けた「ジビエハンター」だけが施設にイノシシを搬入できる仕組みで、52人が市からハンターに認定されている。

 4月下旬から、市内3カ所の道の駅での販売を目指す。市内の飲食店や宿泊施設での提供も視野に入れる。同課の担当者は「大崎市のジビエブランドを確立したい」と意気込む。

 ただし、課題もある。年間500頭を処理できれば黒字化する見通しで、市は27年度までの達成を目標に掲げる。ただ、1月から4月1日までに持ち込まれたイノシシは20頭。事業は始まったばかりとはいえ、ペースは遠く及ばない。

 市は肉の鮮度を保つため、日本ジビエ振興協会(長野県)の指導や先行自治体の事例を踏まえ、とどめをさす「止め刺し」から1時間以内の搬入を求めている。豚熱の検査のために採血なども必要で、「ジビエの郷おおさき」の今野淳さん(61)は「ハンターにとっては手間がかかる。いかに施設に持って来てもらうかが課題だ」と話す。(根津弥)