社会保障、利用のハードル下げる言葉 「経済的困難」が生むためらい
Re:Ron連載「知らないのは罪ですかー申請主義の壁ー」第4回
言葉が人を社会保障制度から遠ざけることもあれば、利用を迷う人の背中をそっと押すこともある。今回はそんな話をさせていただきます。
子どもが義務教育を受ける際に必要な費用を支援する「就学援助」という制度があります。
自治体が定めた基準に該当する家庭は、学用品費、通学費、修学旅行費、校外活動費、学校給食費、クラブ活動費、生徒会費、PTA会費などの費用の支援を受けることができます。
この制度は学校教育法第19条に基づいて全国の自治体で実施されていますが、説明文章は自治体によって異なります。
ポジティブな表現が高めるもの
自治体のホームページでの制度案内を参照すると、例えば、東京23区の中で北区は「お子さまが元気で健やかな学校生活を送れるよう、ご家庭の経済的な事情に応じて学習に必要な費用の一部を援助する制度です」というポジティブな表現を使用しています。新宿区は以前は「義務教育期間中のお子さんが楽しく勉強できるように」といったものでしたが、現在はそのような表現を採用していません。
葛飾区、板橋区、中野区、世田谷区、品川区、目黒区などは、ポジティブな表現は使っていませんが、経済的困難を強調する言葉も避けています。多くの区では、「経済的な理由で就学が困難」といった表現を採用しています。
このように、法律に基づいて全国で実施されているにもかかわらず、説明文章が自治体によって異なる制度は就学援助以外にも多く存在しています。市民に対し、どのような用語や表現を使って情報提供するかという意思決定や工夫は自治体に委ねられているのです。
そうであるならば、用語や表現もまた、社会保障制度へのアクセスのしやすさを高める手段として用いることができるはずです。連載4回目の今回は、社会保障制度における用語や表現に焦点をあて、その課題と可能性について考えていきたいと思います。
自治体の制度説明文書での用語や表現は、内容次第で、特定の状況や属性に対するスティグマ(差別や偏見などの負のイメージ)を強めること、軽減することのどちらにも作用します。
例えば、「生活困窮者」や「低所得者層」「助けを必要とする人々」という表現は、社会保障制度の利用者に対してネガティブな印象を与えます。制度利用を検討している人がそのような状況にあることを周囲に知られたくないと感じ、制度の利用をためらわせてしまうかもしれません。
反対に、先に挙げた「お子さまが元気で健やかな学校生活を送れるよう」や「義務教育期間中のお子さんが楽しく勉強できるように」といった表現は、個人の制度利用の心理的なハードルを下げる作用があるかもしれません。
板橋区の就学援助の説明ページには、「小学校は約2割、中学校は約3割の方が就学援助を利用しています」という文章があります。このような具体的な数字は、利用をためらう保護者に「あなただけではない」という安心感を与えるメッセージになり得ます。この一文には、板橋区の担当部署の「必要な人に制度を利用してほしい」という熱意が垣間見えます。
自治体によっては、就学援助制度の利用基準を、世帯人数ごとの具体的な例とともに示しているところもあります。利用基準が定められているのであれば、それがどのような属性であるかは明示する必要はなく「経済的な理由で就学が困難」などのあいまいな表現を用いる必要は本来ないはずです。
ご紹介した北区や板橋区のポジティブな表現の採用や具体的な利用割合を示す事例は、制度を必要としている人に利用してもらうためにできることを考え行った工夫であることが想像できます。
みなさんが住んでおられる自治体はどうでしょうか。就学援助の説明ページをご覧になり、説明文章の表現、具体的な利用の基準が書かれているか、ぜひ確認をしてみてください。
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