第1回「男のプライド」捨てられず 仕事も結婚もうまくいかず孤独がつらい

有料記事らしさって 国際男性デー

伊藤和行

 東京都内の駅ビル。その運営会社に勤めてまもなく5年になる男性(64)は、仕事を辞めたいと毎日のように考えてしまう。

 元消防士。60歳で定年退職し、あっせんされた今の会社に再就職した。

 ビル内の設備を見回ったり、入居するショップから相談を受けたりする仕事だが、着任初日から辞めたくなった。男性ばかりだった前職と違い、周りはほとんどが女性で、何を話していいのかわからない。上司の課長には「お客様」を迎えるお辞儀の角度を細かく指導され、いらついた。

 「言い方がすごいきつい」と駅ビルに入るショップ店員から会社に苦情を言われたこともある。身に覚えはあった。シャッターを下ろす場所に物が置いてあったため、店員に「ダメだ」と注意した。「言い方を優しくしましょう」。そう注意され頭を下げるしかなかった。

 未婚の1人ぐらしで、お金には困ってはいない。それでも辞めないのにはワケがあるという。

 「男のプライドがあるから」。男性は記者の目を見つめ、真剣な表情でそう言った。

 「途中で辞めればかっこわるいじゃん。前職の看板にも傷をつけることになるって思っちゃうんだよな」

「男らしさ」とはいったい何なのか。それがもし人を傷つけ、自分を苦しめていたら。11月19日の国際男性デーに合わせた連載第1回です。

 1959年、東京都立川市生…

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この記事を書いた人
伊藤和行
那覇総局長
専門・関心分野
沖縄、差別、マジョリティー、生きづらさ
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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2023年11月18日14時37分 投稿
    【視点】

    「国際男性デー」は、男らしさ(男性に向けられる無意識の偏見)が生む生きづらさについて考える日だ。「男のプライドにかかわる」などとして使われる「男のプライド」という言葉を、この記事の見出しで久しぶりに見たような気がする。といっても、男性が「男

    …続きを読む
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    島沢優子
    (ジャーナリスト・チームコンサルタント)
    2023年11月20日19時10分 投稿
    【解説】

    記事にある全国調査の数字から、不平等な扱いを受けていた女性よりも男性のほうが孤独で生きづらいことがわかります。男らしさという特権をもって生きてきたのに、それを社会が手放そうとしている。そのなかで中高年男性の多くが「困ったなぁ」と頭を抱えてい

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Think Gender

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