第2回怒りの連鎖を鎮められるのか 問われるバイデン米政権の「力と正義」

有料記事ガザの衝撃 問われる世界

アメリカ総局長・望月洋嗣

 イスラエルから帰国直後の10月19日夜。バイデン米大統領は国民向けの演説で、イスラム組織ハマスとロシアのプーチン大統領とを並列し、「いずれも隣の民主主義国家を絶滅したいと考えている」と糾弾した。「テロリストや独裁者が報いを受けなければ、より多くの死と混乱、破壊が引き起こされる」と続けた。

【連載】アメリカ大統領選2024 覇者の焦り

来年に大統領選を控えるなか、混迷をきわめる世界と向き合わなければならない米国。外交を動かす底流となってきたのが、冷戦終結後に手にした覇権が揺らいでいるという「焦り」の感覚です。その実像を描きます。

 イスラエルとウクライナの双方を支えるという米国の「正義」を、国内外に示すのが狙いだったのだろう。しかし、この粗雑な論理を持ち出さなければならないところに、米政権の苦しさがにじみ出ている。

 ロシアによる露骨な侵略が起きたウクライナ情勢をめぐり、バイデン氏はリンカーンの言葉を引用して「正義は力を生む(Right makes might)」と語り、ウクライナの抵抗を励ました。米国が道義的な優位を得るのは難しくなかった。北大西洋条約機構(NATO)を軸に対ロシアで結束できたのも、トランプ前大統領と違い、同盟を重視するバイデン氏ならではの成果だったろう。

 一方、パレスチナ自治区ガザ地区に激しい空爆を続けるイスラエルに対し、国際的批判は日増しに強まっている。もちろん、ハマスによる奇襲の残虐性や違法性は厳しく問われるべきだ。だが、イスラエルが過剰な報復によって無数の民間人の命を奪い続けることも、許されるはずがない。

深刻化するガザ地区の人道危機を前に、国際社会はなぜ有効な手を打つことができないのか。世界からの視点で、突きつけられた課題を読み解く。

イスラエル支える米国 「力こそ正義」なのか

 ユダヤ系米国人は政財界や言…

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この記事を書いた人
望月洋嗣
アメリカ総局長
専門・関心分野
国際政治、紛争
イスラエル・パレスチナ問題

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