交渉基盤なきパレスチナ問題 暴力の応酬止める責務は国際社会全体に

記者解説 論説委員・平田篤央

 中東のパレスチナ自治区ガザを舞台に、イスラエルとイスラム組織ハマスの暴力の応酬が続いている。死傷者は増え続けるが、収束の見通しは立たない。

 今回、ハマスはガザを囲む壁を破り、前例のない攻撃を仕掛けた。注目を集めるのが、ガザ地区を実効支配するハマスを支援するイランの存在だ。空爆に加え地上作戦も始めたイスラエルに対し、「抵抗の枢軸」が報復すると警告している。

 抵抗の枢軸とは、イランが中東各地で支援する武装組織のネットワークだ。ハマスと同じくガザを拠点とするイスラム聖戦、レバノン南部のヒズボラ、シリアの民兵組織、アラビア半島南部イエメンのフーシなどがある。

 イランはイスラム教シーア派が国教で公用語はペルシャ語だ。スンニ派が主流でアラビア語を用いるアラブ諸国とは立場が異なる。そのイランがパレスチナ問題に介入する契機となったのが1979年のイスラム革命だ。親米の国王が追放され、イスラム教に基づく新体制は聖地エルサレムを奪ったイスラエルを敵視した。

 同じ年、エジプトが単独でイスラエルと和平を結びアラブの結束がほころびた。94年にヨルダンが続く。2020年、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなど4カ国が関係を正常化。今年に入り、アラブの盟主といえるサウジアラビアも接近が伝えられた。

 ペルシャ湾岸の産油国は、湾を挟んで向き合うイランが影響力を強めていることを脅威と感じ、イスラエルと利害が一致している。脱炭素の流れのなか、産業を多角化するためイスラエルとの関係を強めたい思惑もある。

ポイント

 国際関係の変化でアラブ諸国から見捨てられるとの恐怖が、ハマスの攻撃を生んだ。オスロ合意から30年たちイスラエルは右傾化、パレスチナは分裂し交渉の基盤がない。パレスチナ問題は中東にとどまらない難題で、国際社会全体で取り組む責務がある。

 この30年でイスラエルの1…

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