小学4年生の時、両親が離婚し、私は母に引き取られて東京で育った。建築設計士だった父は生まれ育った金沢で2度再婚。だが、2019年に3人目の妻と離婚し、77歳で独り身となって成年後見人がついた。
昨夏、金沢市で父の四十九日の法要を済ませた私は、その成年後見人とともに、家財整理事業を担う会社へ向かった。ここに父が最後まで「捨てないでくれ」と願ったさまざまなものが保管されていたからだ。
行くまでは、仏壇の中身と生前の父の写真を数枚、そして父が使っていたロットリングという製図ペンがあったら形見に持って帰ろうか、ぐらいに考えていた。
だが、甘かった。
冷房が利いた事務所の床には大…