処理水めぐり、消えたある言葉 漁業界にふりかかる新たな「水難」

有料記事アナザーノート

編集委員・大月規義

アナザーノート 編集委員・大月規義

写真・図版

ニュースレター「アナザーノート」

アナザーノートは、紙面やデジタルでは公開していないオリジナル記事をメールで先行配信する新たなスタイルのニュースレターです。今回は8月6日号をWEB版でお届けします。レター未登録の方は文末のリンクから無料登録できます。

 日本一の漁獲量を誇る千葉県、銚子漁港。7月下旬の早朝、漁港に面した公園を訪れた。水平線から昇る太陽と岸壁の魚市場を見つめるように、その銅像はあった。

 「坂本庄三郎翁之像」

 碑文によると、坂本翁は元銚子市漁協の組合長。1971年、銚子港に運河を築いた功績が記されている。

 銚子の海には幅1キロ以上ある利根川が流れ込み、海流とぶつかる。そこに「三角波」という激流ができ、かつては漁船の転覆事故が相次いだ。地元の漁師は三角波を「人食い波」と呼んだ。

 運河ができ、安全に航行できるようになって約半世紀。現在の銚子市漁協の組合長は、坂本翁の孫、坂本雅信氏(64)が務める。

 慶応大商学部や米国の大学院で学び、家業の漁業会社を継いだ。組合長として地元漁業の効率化を図り、最近では銚子沖の洋上風力発電と漁業との「共存共栄の地域づくり」を進める。

 全国でも名うての組合長で知られ、昨年、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の会長に就任した。そしていま、東京電力福島第一原発から出る処理水という「水難」に直面している。

 処理水の放出に対する不安は、福島第一原発から200キロ近く離れた銚子にもある。

 漁港近くで30年以上ペンシ…

この記事は有料記事です。残り2420文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません