第6回なぜ日本兵の心の傷は「ないもの」にされたのか 語り始めた2世たち
砲弾が飛び交い、戦場で兵士が殺し合う間だけが戦争ではない。心に傷を負った兵士たちにとって、戦争は時に死ぬまで続く苦しみであり、子や孫にまで惨禍は引き継がれていく。
「戦後」78年のいま、戦争は本当に終わったと言えるのだろうか。2018年の著書「戦争とトラウマ」(吉川弘文館)で、兵士の心の傷について検証した中村江里・広島大学大学院准教授(日本近現代史)に聞いた。
――著作では、日本兵たちの「心の傷」が忘れ去られてきたと説きました。
大学時代に兵士のトラウマを調べていて、「あれ?」と思ったんです。この分野での先行研究は、ほとんど欧米のもの。日本やアジアのものは全然出てこないな、と。
欧米では、「心を病んだ兵士」は歴史学だけでなく文学や映画でもメジャーなテーマです。ロバート・デ・ニーロ主演の「タクシードライバー」(1976年)のように、みんなが知っている映画も、ベトナム帰還兵の後遺症を描いています。
アジア・太平洋戦争で、日本兵は過酷な経験をしてきた。それは多くの人が知っていることです。でも、心の傷は「見えない問題」になっているのではないか。そんな疑問が出発点でした。
戦死よりも多い帰還兵の自殺
――そもそも「トラウマ」とは何でしょうか。
元々は古代ギリシャ語で「体…
- 【視点】
なぜ、日本兵の「心の傷」はないものにされてきたのか。中村江里・広島大学大学院准教授によると、日本軍による資料の焼却、「皇軍には軟弱な兵士はいない」といったプロパガンダ、恥の意識を持つ家族による隠蔽などがあげられます。 こうして戦争トラウマ
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