アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領(70)は、2007年から15年まで大統領を務め、今も政界で大きな力を持つ。名前の頭文字から通称「CFK」と呼ばれる彼女の力の源泉は何なのか。彼女を狙った暗殺未遂事件はアルゼンチンの政治や社会にどのような影響を与えるのか。アルゼンチン政治に詳しい日本貿易振興機構アジア経済研究所の菊池啓一研究員(44)に聞いた。

 ――CFK暗殺未遂事件の一報を聞いた際の感想を教えてください。

 とても驚きました。昨年7月には日本で安倍晋三元首相が暗殺され、10月に控えた隣国ブラジルの大統領選では右派と左派の間で暴力事件が起きるなどしていました。民主主義を揺るがすような今回の事件がアルゼンチンでも起こり、インパクトは大きかったと思います。

 ――民主主義が揺らぐ予兆は以前からあったのでしょうか。

 米国やブラジルでは既存の政治勢力に対する有権者の不信感から、トランプ氏やボルソナーロ氏のように民主主義を軽視しているともとられるような発言をする大統領が誕生したといえます。アルゼンチンでも同様に既存勢力に対する不信感はありますが、人々の民主主義への支持は確固としたものでした。それだけに、今回の事件は衝撃的でした。

長期にわたってアルゼンチン政治を動かしてきたCFK。記事後半では、彼女の大統領時代の功罪、国内で進む分断や10月の大統領選の展望について分析してもらいました。

CFK、「親衛隊」を要所に配置

 ――事件の容疑者は、アルゼンチン政治を長年牛耳るCFKに対する恨みから事件を起こしたとされています。なぜ、彼女は今も政界での影響力を保っているのでしょうか。

 理由は二つあります。一つは、CFKの息子であるマキシモ・キルチネル下院議員が率いる政治グループ「ラ・カンポラ」の存在です。いわばCFKの「親衛隊」のような若手組織で、CFKが所属する正義党(ペロン党)で一定の影響力があります。

 CFKは、若手を育てるのがとてもうまい。ラ・カンポラ出身のデ・ペドロ内相は、CFKの子飼いのような人物です。要所にラ・カンポラのメンバーを配置することで、CFKは権力を維持しているといえます。正義党は幅広い思想の政治家を擁する政党で、CFKと意見を異にする集団もいます。しかしラ・カンポラが活発な限り、CFKの力は失われないでしょう。

 もう一つの理由は、ブエノスア…

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