避難指示解除 「今度は浪江町と一体で」 葛尾村長が明かす心の内

編集委員・大月規義
[PR]

 帰還困難区域のすべての避難者がふるさとに戻れるようにする「特定帰還居住区域」(居住区域)の新設を盛り込んだ改正福島復興再生特措法が2日、成立した。福島県葛尾村の篠木弘村長は朝日新聞の取材に、居住区域の避難指示解除は村単独ではなく、隣接する浪江町と一体的に進める考えを示した。

 村で立ち入り規制が続く小出谷(こでや)地区には、4世帯10人が住民登録されている。

 篠木氏は「震災前の小出谷は、川を挟んだ浪江町の小伝屋(こでや)地区と生活圏が一緒だった。除染や避難指示解除については、浪江と一体で進めたいと国に要望している」と話した。

 単独で進めたくない理由には、昨年の「教訓」もあるという。

 帰還困難区域がある7市町村で初めて避難指示が解除されたのは、昨年6月の葛尾村・野行(のゆき)地区。結果的には誤った解除予定日が事前報道されるなど、注目が集まった。

 「一番先というのは大変だ。総理大臣はくるし、マスコミにも大きく取り上げられる。村民も議会もみんな神経質になった。小出谷地区には4戸しかないから、除染や解除をしようとすればすぐにできるが、あまり急がなくてもいいと思っている」

 避難解除から1年たった野行地区では、30世帯80人のうち、帰還したのは1世帯1人だ。ただ、何人かは避難先から通って農作業などをしているという。篠木氏は「12年以上経過し、生活体系が変わっているなか、帰還するというのは本当に厳しい」と話す。

 野行地区についても篠木氏は浪江町との共生を考えている。「浪江にできた福島国際研究教育機構は周辺市町村の復興も担うので、野行を農産業の受け皿として機構の研究に活用してもらえないか、いま検討を始めている」と語った。

 村の帰還困難区域以外の地域は、2016年6月に解除された。人口約1300人のうち、村内に住むのは約450人。「診療所もでき、バスも震災前の倍くらい走っている。新聞も田村市の販売店から農協の支店に運んでもらって、そこから村民が配っている。しかし、帰還は3割で横ばいだ」という。

     ◇

 5月1日までに6町村で避難指示が解除された「特定復興再生拠点」(復興拠点)は、拠点内の全戸を除染した。これに対し、特定帰還居住区域の除染は、避難先から帰還する意向を国に示した住民の家と周辺、地域の集会所、墓地などに限られる。営農するつもりならば田畑も除染される。今年度は双葉、大熊両町で試験除染が始まる。

 浪江町赤宇木地区の今野義人さん(78)は国の意向調査に「帰る」と答えた。改正特措法の成立について「一歩前進だが、面的に除染してもらわないと、帰りたいと思っても不安になる」と話す。

 今野さんは避難先の白河市から赤宇木に通い、放射線量を測定してきた。一時中断していたが、復興拠点や居住区域の整備で帰る望みが出たため、5月から測定を再開した。避難の基準が年20ミリシーベルト、除染の長期目標が年1ミリシーベルトなのに対し、赤宇木での測定は平均で毎時3マイクロシーベルト(年約16ミリシーベルト)だったという。「除染すれば半減するだろう。できるだけ住みやすい状態にしてほしい」と話した。(編集委員・大月規義

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら