原発の運転期間の延長を含む「GX脱炭素電源法」が31日、参院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党の賛成多数で可決、成立した。2011年の東京電力福島第一原発事故を機に運転期間を最長60年に制限したが、これを超えて運転できるようになる。延長の具体的な要件が定まっていないなど課題は残る。

 GX脱炭素電源法は、原子炉等規制法(炉規法)や電気事業法(電事法)、原子力基本法など5本を一括して改正するもので、束ね法案として審議。

 運転期間の制限は、炉規法で原則40年、原子力規制委員会が認めれば最長20年延長できると規定。原発事故後、当時野党だった自公両党も賛成し、安全規制の柱として導入された経緯がある。

 今回の改正は、原則40年の骨格は維持しつつ、規制委の審査や裁判所の命令、行政指導などで停止した期間を運転期間から除外することで延ばす。除外期間が10年間なら、運転開始から70年まで動かせる。

 ただ、審査などの期間のうち、どの範囲を除外期間と認定するかは法律で示されていない。今後、経済産業省が具体的な基準をつくる。電力会社の過失や責任で審査や工事が滞った期間も含まれる可能性がある。

 運転延長の認可は、安全性ではなく、利用政策の観点から経産相が判断する。電力の安定供給につながるか▽脱炭素へ貢献するか▽電力会社が自主的に安全性の向上や防災対策について努力しているか――といった要件を満たすかを審査する。

 一方、安全性は規制委が確認する。改正した炉基法には、停止期間は除外せずに運転開始から30年を起点とし、10年を超えない期間ごとに設備の劣化具合を審査する規定を設けた。この審査を通らなければ、経産相は運転延長を認可できない。

 具体的な審査方法は規制委で議論しているが、60年を超える原発設備の審査は世界的にも珍しく、専門家からは安全性を担保できるか疑問の声も上がる。

 原子力の「憲法」とされる原子力基本法も改正した。電気の安定供給や脱炭素の観点から、原発の活用に必要な措置をとることを「国の責務」と位置づけた。

 原発の運転延長は、岸田政権が打ち出した「原発回帰」の柱だ。岸田文雄首相は昨年8月、運転延長に加え、「新規建設」「再稼働の促進」など原発政策の転換を検討するよう指示した。その後、今年2月にこれらの方針を閣議決定した。福島第一原発事故以来の原発政策の大転換が、首相指示からわずか9カ月間で決まったことへの批判は根強い。(岩沢志気)