なぜNATOが遠い日本に事務所を創設? アジア初 その狙いは

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聞き手・岩田恵実
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 冷戦のさなかにソ連に対抗するためにできた軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)。欧米の31カ国が参加するNATOがアジアで初めて東京に連絡事務所を置く方向で、日本政府と協議をしていることが明らかになりました。欧米を中心とした機構が、なぜいま日本に事務所を置くのでしょうか。慶応大学准教授の鶴岡路人さんに聞きました。

 ――そもそもNATOとはどのような組織ですか。

 冷戦中の1949年、ソ連に対抗するために西欧諸国や米国など12カ国で発足した軍事同盟です。NATOの本来の役割は「集団防衛」で、一つの加盟国への攻撃に対しても全加盟国で防衛するというものです。

 NATOがどこか別の地域を攻めるということは想定しておらず、基本条約である北大西洋条約(第6条)では集団防衛の対象になる「地理的範囲」を北米と欧州の加盟国領土などと規定しています。米国のハワイやグアムは入りません。

冷戦後、変化する役割

 ――ソ連崩壊後も続いています。どのような変遷をたどったのでしょうか。

 冷戦後、もう役割を終えたという声もありました。しかし実際は、90年代の旧ユーゴスラビア紛争や2001年の米同時多発テロ後のアフガニスタンでの作戦の実施など、グローバルな安全保障の問題に関わるように大きく変貌(へんぼう)していきました。

 その行動の基礎にあったのは、加盟国を守るのが同盟の役割であり、「脅威はソ連やロシアだけではない」というロジックです。第6条で集団防衛の地理的範囲は規定されていても、「どこからくる脅威に対応するか」に限定はないわけです。アフガニスタンに代表されるようにNATOの活動はグローバル化しました。

 しかしそこに冷や水を浴びせたのがロシアによる08年のジョージア侵攻、14年のクリミアの一方的併合です。これらの出来事が、NATOの基本は加盟国の領土を守ることだという「原点回帰」の動きにつながりました。

 ――22年2月からはロシアのウクライナ侵攻がありました。

 NATOがいままさに全力をあげているのが加盟国の防衛です。ウクライナは加盟国ではありません。バイデン米大統領は米軍をウクライナに展開しない理由について「NATOの防衛義務はウクライナに及ばない」と明言しています。

 一方で、ロシアの脅威にさらされているバルト3国やポーランドといった加盟国の防衛強化のために、米軍は2万人以上を欧州に派兵し、加盟国に何かあれば軍事的に厳しい対応ができる態勢を敷いています。これがロシアに対する抑止にもなっているわけです。

■欧州の変化する対中認識…

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