第2回南シナ海に撃ち込まれたハイマース 米中間で割れる基地周辺の住民

有料記事ウミタギル 南シナ海、米中対立の現場から

フィリピン北部カガヤン=大部俊哉
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 鋭い発射音とともに砲弾が白い煙の尾を引き、熱帯の青空を切り裂いていく。

 4発、5発……。たたみかけるように、次々と発射。直後、地上に置かれた大砲から一斉砲撃が始まり、轟音(ごうおん)と土ぼこりが上がった。

 4月、フィリピン北西部サンアントニオの海軍施設であった米軍とフィリピン軍の合同軍事演習「バリカタン」の一幕だ。

 米国がウクライナに提供してロシアに大きな打撃を与えたといわれる高機動ロケット砲システム「ハイマース」の実弾を使った。砲弾を撃ち込んだ先は、中国が海洋進出を強める南シナ海だ。

 演習では、実際に沖合約22キロに停泊させたフィリピン軍の古い船を「敵艦」に見立て、撃沈した。軍の担当者は中国を名指しすることを避けつつ、「海から侵入を試みる脅威への対応を想定した」と説明した。

 「バリカタン」は「肩を並べて」という意味のタガログ語。サンアントニオでの実射訓練を含めて約3週間にわたった演習には、過去最大規模の約1万7600人が参加した。オーストラリアからも100人超が加わった。

 1990年代から続くバリカタンの歴史のなかで、米軍とフィリピン軍が南シナ海で実弾射撃訓練をしたのは初めてのことだ。しかも、中国が実効支配する南沙諸島スプラトリー諸島)のスカボロー礁から約230キロという距離だ。

 フィリピンは2月、米国との防衛協力強化協定(EDCA)に基づいて、米軍が一時的に駐留したり、軍需品を備蓄したりできる拠点を5カ所から9カ所に増やすことで合意した。新拠点には南シナ海に面する西部と、台湾に近い北部が選ばれた。

 南シナ海をめぐっては、フィリピンは領有権紛争の当事国の一つであり、中国への警戒心は強い。米軍との連携の深化は、中国に強い姿勢で臨むマルコス大統領の支持率の高さにもつながっている。しかし、米中対立に「台湾有事」を意識させる要素が加わったことで、国内世論は複雑化しつつある。

南シナ海に接し、台湾にも近いフィリピン。記事後半では、海軍基地のある街で葛藤する住民の声を聞いています。

基地のある街で、市長が恐れること

 最前線の地ではどう受け止められているのか。現地を訪ねると、穏やかな街は、揺れ始めていた。

 4月中旬、新たなEDCA拠…

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