AIが作ったイラスト、「投稿禁止」の動きも 著作権以外のリスクは

有料記事

篠健一郎 鶴信吾 小早川遥平
[PR]

 AI(人工知能)による作品をどう取り扱うべきか。イラストや写真を投稿したり販売したりするサイトで、対応が割れている。手軽に画像が作れる生成AIによって創作の幅や機会が広がる一方、著作権侵害などのリスクがあるためだ。利用者の声を受けて対応を見直したサイトもある。

 イラストなどの投稿サイト「ピクシブ」(東京)は、5月に入ってからの12日間に、生成AIで作られた作品の取り扱いについて、「お知らせ」「今後の対応」など計4件の発表を矢継ぎ早にした。

ピクシブが対応変える

 9日には、AIに作品を学習されたクリエーターが、なりすまし被害を受けたり、勝手に名前を使われたりするなどの被害を受けているとして、5月中に利用規約・ガイドラインを改定し、そうした行為を禁止すると発表した。「特定のクリエーターが不利益を被っている」「プログラムなどで、クリエーターの作品が不当に収集される」などという問い合わせが相次いでいたことから、対応を取った。生成AIの悪用などを監視するシステムも導入予定だという。

 またその後、ピクシブ(pixiv)の一部機能や同社の関連サービスについて、生成AIによって作られた作品の取り扱いを当面禁止すると発表した。

 対応が変わった背景には、ユーザーたちの声があった。

 「黒須」のペンネームで活動する神奈川県の30代男性は7日、ピクシブ上に上げていた約100点の作品を「非公開」とした。

 自身のツイッターには「非公開にしようと思います。AI対策というよりは、その対策をしてほしいという運営への意思表示として」と思いをつづった。

 同業者がAI作品の掲載を認めているピクシブに抗議していると知り、「一斉に声を上げることで社会に問題を知ってほしい」と同調したという。

「AI自体が悪いわけではない」

 趣味が高じて、昨年から電子コミックなどに商用のイラストを書いている。ピクシブに作品を投稿してきたのは、企業や仲間に自身の作品を知ってもらうためだ。だが、AIを使うことで、苦労して描いたキャラクターや構図などのアイデアが他人に一括で盗まれ、無許可で利用されてしまう懸念があることに危機感を抱いた。

 「人間の手だと5時間、長ければ3日かかる作品が、AIなら1日で100~200枚は描け、あっという間に収益化されてしまう」

 技術の進化の速さにも危機感を感じる。1年前は、AI作品には不自然さがあり、盗作も分かりやすかったが、洗練されてきているという。「使う企業や個人が増えるほど、加速度的に進化していく」

 日本の著作権法では、権利者の許諾なくAIに著作物を読み込ませて学習させることができるが、「著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りでない」というただし書きがある。生成AIについて具体的にどのようなケースがあたるかは議論の最中だ。

 細かな法整備には時間がかかるため、男性は、業界で一定のガイドラインが設けられることを期待する。「AI自体が悪いわけではない。包丁やナイフと同じで使い方が悪いと人を傷つける。このままだと新しい描き手が減り、市場を狭めるリスクがあることを知ってほしい」

いたちごっこ、だけれど

 イラストレーターや漫画家として活動している「霧月」さんも7日、ピクシブに載せていた作品の一部を非公開にすると表明した。14年間利用してきたが、出どころがわからない学習データを用いてAIがつくったコンテンツに金銭が発生することに懸念があったためだ。

 霧月さんは取材に、「AIの技術革新や利便性の向上は大歓迎」とした上で、「一部の心ない使用者の手で多くのアーティストの個性や作品を盗用して好き勝手にされている現状だ」と指摘する。

 AIのデータは出どころがわからないため、自身はAIを使った創作はしていないという。「自分の作品を好き勝手に扱われて快く思わないアーティストがほとんどであるように、自分も他のアーティストの作品を好き勝手していいとは考えない」

 AIへの対策について、霧月さんは「自動ツールで外部から掲載作品のデータを収集されるのは完全には防げず、対策したとしてもそれを回避するツールが生まれるだけのいたちごっことなる」と話す。それでも、「だからといって対策を怠って良いということにはならない。対策を強化し続けてほしい」。

 ピクシブが一部のサービスでAI作品の投稿を禁止したことについては、「良い対応。出どころも不明な学習データを用いたコンテンツに金銭が発生するということ自体が危うい。正しい判断だ」と評価した。

記事後半では、アドビとゲッティイメージズに対応と社内での議論を取材しました。専門家に聞くと、問題は著作権だけではないようです。

 AIによる作品をどう扱うの…

この記事は有料記事です。残り1618文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    田渕紫織
    (朝日新聞社会部記者=メディア、子ども)
    2023年5月13日12時29分 投稿
    【視点】

    最後の岸本先生のお話を、日本の現状の一歩先取ったご指摘として、大変重く受け止めました。過去データからの学習に基づくAIは、必然的に、今の社会の中にあるバイアスにドライブをかけてしまいます。 Amazonが人事採用でAIを使っていたとこ

    …続きを読む