リニア非常時、南アルプスの谷間へ避難も 住民「ここは災害で孤立」

有料記事科学とみらい

鈴木智之 竹野内崇宏 編集委員・佐々木英輔
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 南アルプスのふもと、急峻(きゅうしゅん)な谷が入り組む長野県大鹿村。村の中心部から川沿いの細い道を10分ほど進むと、リニア中央新幹線のトンネル工事現場が見えてきた。

 付近は山梨・静岡・長野3県にまたがる全長25キロの南アルプストンネルの出口にあたる。開通すれば、リニアは谷間を一瞬で抜け、名古屋に向け次のトンネルに入る。

 長大なトンネルが多いリニア中央新幹線では、トラブル時の避難が課題になる。車両での移動が難しければ、最後の手段として徒歩で非常口から出ることになる。

 「もし乗客が出て来られたらもちろん避難するのを助けたい。でも、この地域で地上に避難してこない方が、乗客の皆さんも安心できるかもしれません」

 近くの釜沢集落に住む中村政子さん(65)は、行き交う工事車両を眺めながらこう語った。

 「災害時にはおそらく孤立する集落ですから」

超高速で山岳地帯を貫くリニア中央新幹線。大災害への備えや安全対策はどうなっているのか。

孤立集落に乗客数百人?

 大鹿村の人口は約1千人。中村さんによれば、釜沢集落の人口は普段は13人で、集会場は20人入ればいっぱいになる。付近では土砂災害がたびたび起き、3年前の大雨でも1週間にわたり集落が孤立した。村内に消防署はなく、管轄の消防署からは車で40分かかる。

 そこに、多ければ1列車あたり数百人の乗客が避難できるのか、心もとないという。

 本州と北海道を結ぶ青函トンネル(全長約54キロ)で2015年に起きた特急の発煙トラブルでは、乗客124人がケーブルカーで地上に避難するのに6時間近くかかった。

 リニア技術を「確立」とした国土交通省の技術評価委員会でも、残る課題として長大トンネルの火災リスクが議論になったという。パンタグラフのないリニアは、車内で使う電気を得るために発電機と燃料の灯油を積んでいたからだ。

 これは、地上のコイルから非接触で電気を送る「誘導集電」を導入することでクリアした。「リニアの安全性は従来の交通機関と比べて同等なレベルになっている」と、技術評価に携わった専門家は話す。

 とはいえ、乗客が思わぬ足止めに遭う可能性は否定できない。考えられるのが大地震のときだ。

 村の中央構造線博物館顧問で学芸員の河本和朗さんは「トンネルの出入り口や非常口周辺で崩壊がおき、埋まってしまうことも想定した避難体制を考えるべきだ」と指摘する。

 JR東海によると、地震や設備の故障でトンネル内に停車した場合、安全を確認した上で運転を再開させることが原則だという。動かない場合は対向の線路に別の列車を手配するなどし、それも難しければ非常口を使う。

 山岳部で車両を使えない状況になれば、長い距離を歩き、傾斜のある非常用のトンネルを上って地上へ出ることになる可能性がある。

 地元での受け入れや避難支援体制の検討は、これからの状況だ。

JR東海「脱線はない」

 昨年3月の福島県沖地震では東北新幹線の高架橋の柱が損傷して40センチ沈み、激しい揺れで脱線が起きた。リニアの場合はどうなのか。

 車両がU字形のガイドウェイに囲まれているため、「脱線することはない」というのがJR東海の説明だ。土木構造物も「最新の基準を踏まえて十分な耐震性を有する」という。

 車両から側壁までの距離は台…

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