AIに脅かされる「個人」 情報を断ち切る規制必要 政治季評

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政治季評 重田園江さん

 3月末ごろから、ものすごい勢いでChatGPTチャットGPT)に関する記事やニュースが現れた。現状では、チャットGPTにできなくて人間にできることは何か、うまく共存するにはどうすればいいかなど、人間と生成AI(人工知能)との截然(せつぜん)たる区別を前提とした議論が目立つ。

 だがその前に、AIと人間との間で何が起きているのかよく考えるべきではないだろうか。チャットGPTのような革新的なチャットボット(自動応答システム)が出現した背景には、ヒトの脳の処理によく似た機能を有するTransformerという深層学習モデルの導入があった。これを用いることで、計算やデータの量が増えると精度が劇的に改善する現象が起こるようだ。これは、2020年に米オープンAI(チャットGPT開発元)の論文で発表されている。

 これに加えて、AIの回答の質を上げるために、人間が好む会話パターンの追加的な学習や、AIの回答に人間が評価を与える事後の微調整が行われている。また「文章が人間の感覚に近いかどうかを判定する報酬モデル」(「中田敦のGAFA深読み」「日経クロステック」23年3月31日)による強化学習が加わることで、チャットGPTは急速に能力を向上させている。

 オープンAIはチャットGPTをオープンソースとして公開している。利用者を増やして膨大なデータを手に入れることができるからだ。タダにする代わりにユーザーからの情報が取り放題、というのは、ネット社会では見慣れたやり方だ。

 以前から巨大IT企業は、世界中から集めた情報を使ってボロもうけしてきた。私たちは自ら進んで、自分の思考や行動や価値観の一部をGAFA(ガーファ)と呼ばれる米IT大手に無償で提供してきたのだ。

 私が今日スマホを使ってした…

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    藤田直央
    (朝日新聞編集委員=政治、外交、憲法)
    2023年6月8日20時14分 投稿
    【視点】

    終盤の「繫がることはよいことだという考えを改め、切断することの重要性を強調しなければいけない」「リアルに依拠して個人への帰属というフィクションを組み直す」。ここだと思いました。  個人や人権という言葉は大事だと思って私も記事でよく使います

    …続きを読む