防衛産業の「国有化」を可能に 異例の支援法案が衆院通過へ

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田嶋慶彦
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 岸田政権が掲げる防衛力の抜本的強化に向け、装備品の開発や生産基盤を強めるための法案が、5月9日にも衆院本会議で可決される見通しだ。法案にはさまざまな支援策が盛り込まれているが、なかでも目を引くのは、企業が経営に行き詰まった際の「国有化」だ。専門家からは「企業の救済が目的になりかねない」との懸念が出ている。

 法案は4月27日の衆院安全保障委員会で自民、公明の与党のほか、立憲民主、日本維新の会、国民民主の野党も賛成に回り、可決された。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、防衛力の強化自体には野党の大半が理解を示している。衆院本会議で可決されれば、法案をめぐる論戦の舞台は参院に移るが、議論は深まっていない。

 政府が異例とも言える支援に乗り出すのは、「防衛産業は防衛力そのもの」(浜田靖一防衛相)と考えているからだ。護衛艦や戦闘機などの装備品をつくる企業は、三菱重工業川崎重工業三菱電機などの下請けも含めると数千社あり、市場規模は約3兆円とされる。ただ、納入先が自衛隊に限られ、収益性の低さなどから撤退する企業が増えているという。

 自衛隊の任務に「不可欠な装備品」をつくる企業と認定されれば、AI(人工知能)など最新技術の導入による製造工程の効率化や、サイバーセキュリティー対策にかかる経費を国が負担する。2023年度当初予算に363億円を計上している。

 装備品の輸出を支援するために新たに基金をつくり、海外向けの仕様や性能に変更するための費用も助成する。こちらも23年度当初予算に400億円を計上済み。買い手が自衛隊だけという構造から脱却し、海外市場への進出を促す狙いだ。

 「国有化」は、こうした支援策を受けても経営難などで事業を続けられない企業への措置だ。国が土地や製造施設を買い取り、別の企業に運営を委託する。固定資産税や設備の維持費の負担を軽くして、装備品の生産を続けてもらう。

 ただ、支援の前提となる「任務に不可欠な装備品」の定義はあいまいだ。国が取得した施設はできるだけ早く他の企業に譲り渡すよう努めるとの規定もあるが、実効性は不透明だ。

防衛産業の強化ではなく、救済が目的となるおそれ

 法案に反対する共産の赤嶺政…

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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年4月30日14時45分 投稿
    【視点】

    防衛産業の国有化は、いわばかつての陸海軍の「工廠」を再び作るということになりかねない、という批判が出るかと思ったが、そういう議論が出てこないのが少し興味深い。日本の防衛産業は大きな企業の一部として、収支が悪化しても他の部門から資金を回すこと

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