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国交省元次官、「OBを社長に」要求 空港関連会社の人事に介入か

畑宗太郎 柴田秀並 編集委員・伊藤嘉孝
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 国土交通省の元事務次官が昨年12月、羽田など各地の空港でビルの運営などを手がける民間企業「空港施設」(東京都)の首脳に対し、国交省OBの副社長を社長にするよう求めていたことがわかった。この元次官は、東京地下鉄(東京メトロ)の現会長、本田勝氏(69)。空港施設社を訪ねて自身の立場を「有力なOBの名代」と説明し、社長に就任させれば「国交省としてあらゆる形でサポートする」とも語っていた。

 空港施設社は東証プライム上場。同社の事業をめぐっては、国有地の使用や、貨物施設の賃貸事業に必要な事業者指定など、国交省が多くの許認可権を持っている。そうした権限を背景に、国交省OBが民間企業の役員人事に介入しようとした可能性がある。

 複数の関係者や朝日新聞が入手した会社側の記録によると、本田氏は昨年12月13日に同社を訪ね、乗田俊明社長と稲田健也会長と面会。元国交省東京航空局長で同社の副社長に就いている山口勝弘氏(63)を、今年6月に予定される役員人事で社長にするよう求めた。

 同社では1970年の設立以来、国交省系のOBが社長に就いていた。しかし、社長肝いりの事業が損失を出すなどして経営刷新を求める声があり、2021年から、日本航空(JAL)出身の乗田社長とANAホールディングス(HD)出身の稲田会長という体制になっている。2社は空港施設社の主要株主。

先輩OBの名を挙げ「有力なOBの名代」

 本田氏は面会の席で、「方針が固まった」「国交省の出身者を社長にさせていただきたい」と発言。自身の立場を「有力なOBの名代」と説明し、先輩の元次官の実名を挙げて、元次官も同様の考えだと伝えた。山口氏が社長に就任すれば「国交省としてあらゆる形でサポートする」とも語ったという。

 空港施設社側は「上場企業なので、しっかりした手続きを踏まないとお答えが難しい」と答えたという。

 本田氏は国交省で航空局長、官房長、事務次官などを歴任して15年に退官。損保会社の顧問を経て19年6月から、全株式を国と都が保有する東京メトロの代表取締役会長を務める。この会長人事は閣議了解もされている。東京メトロと空港施設社の間に資本関係はない。

本田氏「圧力をかけたわけではない」

 本田氏は取材に、面会について「いろんな方々から頼まれて」と経緯を説明。「相談に行ったということ。あとは会社で手続きを踏んでほしい」という趣旨だったとし、「国交省としてサポート」との発言については「OBというか仲間としてサポートするという気持ち」と語った。自身の言動について「国交省を笠に着て圧力をかけたわけではない。そう受け止められたなら申し訳ない。軽率のそしりは免れない」と述べた。

 本田氏が名を挙げた元次官は「2年前に国交省OBの(空港施設社の)社長が退任する際に調整を(本田氏に)頼んだことはあるが、昨年の面会は知らない」と述べた。

 国交省人事課は取材に「国交省は関与していない。退職した者の言動についてコメントする立場にない」とした。

 乗田社長は取材に本田氏の訪問を認め、「弊社は上場企業であり、取締役候補者は指名委員会で決める旨を回答した」と述べた。山口氏は会社を通じて「事実を承知していない」と回答した。

元公務員のあっせん、規制するルールなし

 空港施設社は従業員約120人、22年3月期の売上高は約237億円。昨年6月時点で、役員13人のうち3人が国交省OBとなっている。

 国家公務員法は、省庁による天下りのあっせんや現役職員による利害関係企業へのポストの要求などを禁じているが、元職員によるあっせんなどを規制するルールはない。(畑宗太郎、柴田秀並、編集委員・伊藤嘉孝)

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〈企業ガバナンスに詳しい青山学院大の八田進二名誉教授の話〉国交省の事務方トップを務め、現在も社会的地位の高い人物が有力OBの『名代』とまで名乗ったのであれば、有力OBらによる組織的な要求だと疑われてもしかたがない。元官僚が規制の枠の外で、出身官庁と利害関係にある民間企業の人事に介入しようとする構図で、国は実態調査と対策を講じるべきだ。

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