聞き手・渡辺丘、小野太郎
中国が活動を活発化させる沖縄県・尖閣諸島沖を管轄する第11管区海上保安本部(那覇市)の一條正浩本部長(60)が3月末の退職を前に朝日新聞のインタビューに応じた。中国海警局所属の公船と連日対峙(たいじ)する最前線の指揮官は、警備活動について「勝っても負けてもいけない。引き分けをキープすることが重要」と語った。政府・与党から海上自衛隊との連携強化を求める声が強まるなか、海保の軍事的機能を否定した海上保安庁法25条の改正を求める動きについては、慎重な考えを示した。
――日本が尖閣諸島を国有化し、中国公船が領海侵入を繰り返すようになって10年が過ぎました。変化は見られますか。
尖閣沖を航行する中国公船が3隻から4隻に増えたり、武器搭載船が来たりといった変化がありました。
私が11管区本部長を務めた過去2年では、(日本の領海に接する)接続水域の航行が2021年の332日から、22年は336日に増え、過去最多を更新しました。海保の巡視船は現場で24時間、365日、警戒を続けています。
接続水域の航行は自由です。国際法違反ではないけれど、ほぼ常態化しており、極めて深刻だととらえています。
――領海侵入も毎月起きており、昨年12月には連続侵入時間が過去最長の72時間45分に達しました。
このときは航行中の日本漁船が(尖閣周辺に)長くいて、中国公船が近づこうとしていました。日本漁船の航行に伴う領海侵入の時間はこれからも増えていく可能性があると思います。
それに対して、中国公船単独での領海侵入は過去10年ほど(1回あたり)2時間ぐらいで変わりません。中国からすれば、「自分たちの領海に堂々と入っているだけ」というアピールでしょう。
ただ、船の数が3隻から4隻に増えたように、今後は2時間から2時間半、3時間と小刻みに増やす可能性があります。中国は基本的に、相手が気づかないうちに薄く切って食べる「サラミ戦術」なんです。
私たちはサラミ戦術に引っかからないよう、今の状態に慣らされないように、緊張感を維持することに重きを置いてやっています。
――最前線の現場で、海保の巡視船はどのように中国公船を警戒しているのですか。
サッカーと同じと考えてください。ボールを持っている相手チームが中国公船です。まずはマンツーマンディフェンスをします。
そこを抜かれたときに、終わり…