今夏までに開始が予定される東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出について、岩手、宮城、福島、茨城4県の沿岸や原発事故で避難指示が出た計51市町村の首長に朝日新聞がアンケートを実施したところ、半数近くが容認できないとの姿勢を明らかにした。理解醸成や風評対策の不足を指摘する声もある。

 アンケートは昨年12月末にウェブで実施。処理水の海洋放出について選択式で回答する設問と、考えを聴く自由記述欄を設けた。2月中旬までに全首長から回答を得た。

 海洋放出を容認できるかどうかの問いには、「どちらかといえば」を含め「容認できる」と答えたのは13人にとどまり、半数に迫る25人が「どちらかといえば容認できない」「容認できない」と答えた。理由を複数回答で尋ねると、「多くの漁業者の反対」を挙げた人が22人と最も多く、「国内外の理解が不十分」(18人)、「風評被害や賠償への国や東電の対応が不十分」(13人)と続いた。

 放出された場合、地元で風評被害が起こると思うかとの問いに「はい」を選択した人は31人で6割を占めた。懸念される被害(複数回答)は、「農林水産物の買い控えや取引停止」を挙げた人が28人と最も多く、「観光客の減少」(13人)、「海水浴場への影響」(8人)と続いた。

 海洋放出への理解醸成や風評対策として、政府や東電が行う各種取り組みへの評価も尋ねた。

 経済産業省は昨年末から全国向けのテレビCMや新聞広告を打ち、処理水への理解を求めた。この取り組みについて、6割近い29人が「どちらかといえば」も含め「役立つ」と答えた。

 また、水産物の販路拡大や冷凍保管のために国が創設した風評被害対策の基金については、12人が「評価する」、27人が「どちらかといえば評価する」と答えた。

 これらの取り組みで十分かを尋ねたところ、「どちらかといえば」を含め、7割近い34人が「不足している」と答えた。

 遠藤雄幸・川内村長は海洋放出について「どちらかといえば容認できる」としながらも、国の取り組みには「どちらかといえば不足している」を選んだ。「処理水(トリチウム)の影響を理解していても合意形成に至らないのは、心情的なものもあるのでは。地域住民に寄り添った丁寧な説明を愚直に継続することが必要」などと指摘した。

 また、政府や東電に望むことについて、内田広之・いわき市長は「現時点で『国民や関係者の理解を十分に得た』とは言えない状況。わかりやすく積極的な情報発信と、漁業者をはじめ関係者らの理解を得ることに全力を尽くしてもらいたい」。藤原一二・川俣町長は「利害関係者以外は他人事。もっと広く理解醸成をはかるべきだ」と求めた。

 このほか、「海洋放出によらない新たな処理・管理方法を検討し、実行するよう強く求める」(岩手県宮古市)など、抜本的な見直しを求める声もあった。

 門馬和夫・南相馬市長は海洋放出について「安全性や風評被害への不安が復興の妨げになることを懸念する。政府には時期ありきではなく、海洋放出の背景や安全性の評価について、国民に対し、十分な説明と理解を得るよう求める」との考えを示した。(力丸祥子)

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