原発の運転延長をめぐり、政府が「原子力の憲法」といわれる原子力基本法を改正しようとしている。原発の運転期間の規制は脱炭素や電気の安定供給のためと位置づけるほか、原発事業者が安定的に事業を行うことができる環境を整備するための施策を講ずることなどを明記している。元原子力委員会委員長代理の鈴木達治郎・長崎大教授は「運転延長などに法的な説得を持たせるために、上位法令を変えるということなら、まさしく本末転倒だ」と指摘する。

 ――今回の改正案をどうみますか。

 「常識の範囲を超えたもので、驚いた。原子力基本法はいわば原子力の憲法で、原子力利用の基本的な哲学や方向性を示すものだ。原発の運転延長などはエネルギー政策のごく一部で、そんな細かいことを書き込む必要はない」

 「福島の事故の後、原発の運転期間を原則40年とするルールがつくられたときに、(運転期間に関して)基本法改正の話はなかった。今回はなぜ改正するのか、理解に苦しむ。基本法改正で、運転期間の規定を原子炉等規制法(炉規法)から電気事業法に移す根拠ができたと考えているのだろうが、規制の改正であれば、本来は原子力規制委員会での議論を踏まえて行うものだ。推進側を後押しするための強引な基本法改正ではないか」

原子力基本法とは

 ――原子力基本法とはそもそもどんなものなのでしょうか。

 「原子力基本法はもともと、日本が原子力の研究開発を始めようとしたときに、平和利用を担保するためにつくられた。原子力利用の『自主・民主・公開』という3原則を決めたのが画期的で、日本学術会議が大きな貢献をした。エネルギーは大きな目的の一つだが、放射線利用とか医療利用とか、基礎科学の振興とか、原子力にかかわるさまざまな目的があり、それも全部含めて書かれている法律だ。安定供給とか脱炭素を、わざわざ原子力基本法に書き込む必要はない。その中でも最も大事なのが平和利用の担保だ。炉規法や電気事業法の改正のために基本法を改正するのは論理が逆」

 ――エネルギー政策基本法という法律もあります。

 「エネルギー政策については『エネルギー基本法』のほうが『原子力基本法』より包括的で権限も強い。それならば、わざわざ原子力基本法を改正する必要はなく、むしろエネルギー基本法に書き込む方が道理にかなう。実際に、エネルギー基本法には『安定供給の確保』『環境への適合』と入っているのだから、わざわざ原子力基本法に書き込む必要はない。本来の法の趣旨を考えない、あくまで官僚の論理に基づく改正だ」

■「論理が逆。本末転…

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