日本は目の前の現実に押し流されていないか 宇野重規さんの問いかけ

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聞き手 編集委員・豊秀一

耕論 ウクライナ侵攻に見る現実と規範

 ロシアがウクライナに侵攻を始めてから約1年となる。侵攻直後から、国際法や国連など国際機関の無力さが様々に指摘されてきたが、こうした規範を無視するような力による「現実」に、私たちはどう向き合うべきか。そもそも、「現実」とは何なのか。政治哲学が専門の宇野重規・東京大学社会科学研究所教授に話を聞いた。

うの・しげき

 1967年生まれ。東京大学社会科学研究所教授。専門は政治哲学・政治思想史。近著に「日本の保守とリベラル」。

 ――安全保障環境の変化などを理由に、岸田政権は自衛隊に敵基地攻撃能力(反撃能力)を持たせる方向で一気にかじを切りました。どうご覧になっていますか。

 「ロシアの戦争による国際秩序の変化や中国の軍事力増強、北朝鮮の核・ミサイルの脅威などに対して、何らかの対応をしないといけないというのはその通りです。しかし、例えば、どれくらいのミサイル防衛能力を持てば中国に対応できるのか、政府は、その根拠や見通しを語るべきです。単に、相手が軍事力を増強するからこちらも増やすというだけでは、無限の軍拡のレースに突入していきます」

政治は目の前の現実にただ追随していないか

 「しかし、国民に対して具体的な説明はありません。防衛費が国内総生産(GDP)の1%という従来の水準にどれだけ理論的な根拠があったかは疑問ですが、少なくともそれを2%にするのであれば、妥当性を説明し、議論を深めるべきです。そうした基本が欠如しているのは、中国が軍事力を強化しているから、日本も対応しないと仕方がないと、目の前の現実にただ押し流されているように見えます。政治学者の丸山眞男がかつて言った『「現実」主義の陥穽(かんせい)』に陥っているのではないでしょうか」

 ――「現実」主義の陥穽ですか?

 「実際の現実は日々作られているにもかかわらず、現実はすでに与えられたものであって変えることはできないと考えてしまう思考のあり方です」

 「錯綜(さくそう)し、矛盾…

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