大規模盛り土、下流住民は不安 静岡の山林、容疑の業者逮捕

魚住あかり 黒田壮吉
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 国の「砂防指定地」である静岡市の山林に無許可で盛り土を造成したとして、静岡県警は県砂防指定地管理条例違反などの疑いで、市内にある残土処分会社の社長と前社長の男2人を逮捕した。盛り土への行政の対応は指導どまりで、何年も放置されてきた。危険とされる盛り土の下流に住む住民は不安を抱いている。(魚住あかり、黒田壮吉)

 静岡市中心部から車で約1時間。標高約700メートルに杉尾展望休憩所「杉尾はなのき」(同市葵区杉尾)が見えてきた。休憩所から見下ろすと、幅、高さともに数十メートル以上の盛り土が見える。「ダンプカーが頻繁に通っていた。産業廃棄物なども捨てていたのではないか」。付近の住民は話す。

 県などによると、逮捕された業者は2018年に盛り土を始めたとみられ、違法な盛り土は約5万立方メートルと推定される。熱海市伊豆山で21年7月に大規模崩落した盛り土のように元々沢があった谷間を埋めたとみられ、約700メートル下流部には住宅もある。

 住民の80代女性は「行政にかけあったが、何もしてくれなかった。大雨で崩れてこないか心配だ」と話す。休憩所で働いていた5年ほど前にはダンプが残土を運ぶ様子を目にしていたといい、「ここまで量が多くなっているとは思わなかった」。

 数年前から自宅横の沢には大雨のたびに泥水が流れるようになった。以前は沢の水で育てたしいたけを販売していたが、「盛り土の中に何が入っているのか分からないので、販売はやめた」と嘆く。

 県は外部の通報で19年に盛り土を把握。口頭と文書で撤去を指導していたが、前社長が「私有地に土を捨てているだけ」と応じなかったという。21年1月ごろからは現社長が窓口となり、指導に応じるようになったとして、措置命令には踏み切らなかった。

 一方、休憩所から北東に約1・5キロの日向地区にも、同じ業者が違法に造成した盛り土がある。県などによると、盛り土は約37・5万立方メートルに上り、付近の沢の2キロ下流には住宅もある。県は05年に把握したが、指導どまりで撤去されなかった。

 県警によると、違法な盛り土による利益は、18年からの5年間だけで1億円以上に上る。盛り土の全体量から換算すると、7億円を超えるとみられる。現社長は「県と市から行政指導を受けたが、職員が来なかったので搬入を続けた。家族や従業員のためだった」と供述しているという。

 県が撤去命令など強い措置を講じなかったことについて、川勝平太知事は1月下旬の会見で「(評価は)難しい。県としてはできることをしてきた」と述べ、行政の対応の妥当性について明言を避けた。

 また、残る盛り土について「あれだけの土を(撤去のために)持っていく場所がない」とも明かした。県は「業者に撤去を指導していくが、応じない場合は行政処分なども考えている」としている。

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 県の盛土対策課によると、県内には民家などに被害を及ぼす恐れがある「緊急性の高い盛り土」が7カ所ある。このうち2カ所は今回摘発された静岡市葵区の盛り土だ。熱海土石流以降、県警も違法な盛り土の摘発に力を入れている。

 県は21年8月~22年3月に県内の不適切な盛り土196カ所を総点検し、危険度をランク付けした。「緊急性の高い盛り土」はほかに、函南町丹那に3カ所と沼津市宮本、島田市福用の各1カ所で、県や県警などは危険性に応じて対策を進めている。

 昨年3月には沼津市宮本の盛り土をめぐり、県警が同市の事業者の男を逮捕。男は地裁沼津支部で懲役1年執行猶予4年の判決を受けた。台風15号で土砂崩れが起きた島田市福用の採石場跡地では、県の行政代執行が決定している。

 函南町は昨年11月、県内2業者が山林に無許可で盛り土を造成したとして、町の土砂条例違反で三島署に刑事告発した。町は21年春に盛り土を認知して以降、業者への指導をしているが、進展がないという。同町は「県と連携し、今後も撤去を業者に指導していきたい」としている。

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