退職し東京から限界集落へ「移住失敗、もう限界」 一家の絶望と希望

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加藤勇介
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 東京から四国地方の山間部の限界集落に一家で移住。小学生の娘と息子は豊かな自然と多様な生物に触れ、夫婦は古民家再生や自然農法での野菜づくりに取り組む。そして3人目の子宝に恵まれ、減少続きだった限界集落の人口が1人増えた。

 そんな魅力的な田舎のスローライフが紹介されていたYouTubeのチャンネルに、突如として衝撃的な動画が投稿された。

 「移住失敗」「もう限界、引っ越します」

夫婦共に小学校教員、コロナ禍の決断

 東京生まれ東京育ちの男性(34)は、1歳年下の妻と共に小学校教員。安定していた生活を送っていたが、コロナ禍が価値観を変えた。

 特に都内は行動制限が多く、子育て環境として大丈夫なのか不安が募った。

 職場でも学校行事が次々と中止になり、感染予防で調理実習もできない状況に。子どもたちが体験や学びをできないことに、教員の意義についても考えさせられた。

 「せめて自分の家族だけでも何かの体験をしたい。それを動画で発信することで、広い学びの場にできないか」

 移住を決めた2021年冬の時点では妻は第3子を妊娠中。移住すると世帯収入は3分の1ほどにまで減ってしまう。退職には抵抗があった。

 しかしコロナ禍に加え、物価高騰が起き始め、当時はロシアのウクライナ侵攻がささやかれる世界情勢の不安定さが背中を押した。やはり都心での今までの生活が良いとは思えない。

 「低エネルギーで、自分たちの生活を実感できる形をつくっていこう」と夫婦で話し合い、地域おこし協力隊に応募。東京都調布市から、縁もゆかりもない四国に移り住んだ。

 集落の人口は約100人、高齢化率は60%超にも達していた。期待の一方で「実際に住んだら大変な面もあるだろう」との覚悟はもちろんしていた。

「あの人、呼んでいないから」移住生活の影

 いざ移り住むと、集落では珍しい子どもがいるだけで近所の人からとても親切にしてもらえた。猟や釣りに誘われ、米の収穫や餅つき、炭焼き窯など東京ではできなかった様々な体験ができた。

 限界集落といえども、車で1時間あれば総合病院があり、何でもそろうイオンモールもある。生活で極端な不自由を感じることもなかった。

 耕作放棄地の草刈り、古民家再生、念願だった自然農……。YouTubeで取り組みを動画にすると、6千人ほどがチャンネル登録をして応援してくれた。

 想像以上に順調に滑り出した移住生活。しかし早くも1カ月後に「あれっ?」という出来事が起きた。

 順調な移住生活が一転、1年後には男性の心身が悲鳴を上げる状態になりました。記事後半では、男性の身に起こった出来事、限界集落から引っ越した後の生活、受け入れた自治体の見解を紹介します。

 集落では、地元の人たちと…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2023年1月26日10時44分 投稿
    【視点】

    地方移住とは、いわば転職活動である。「ブラック企業を避けるために離職率を調べるのだから、同じようにすればよかった」というのは、正論である。 総務省「令和3年度地域おこし協力隊の隊員数等について」によれば、任期終了後の定住率は65.3%

    …続きを読む
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    安田峰俊
    (ルポライター)
    2023年1月26日20時57分 投稿
    【視点】

    最近、貧しく未来なき日本の閉塞感を嘆く言説がずいぶん人気(?)です。実際、氷河期世代の生活者たる私もそれを感じているので、ツイッターなんかで言及することもしばしばです。 しかし、一方でこの閉塞感は「日本」という主語で語るものではなく、

    …続きを読む