山内深紗子
心は暴れ馬。人間関係がうまく築けなかった。高校を卒業後、美容院のアシスタントになった。
でも、一度に二つのことができない。ドラッグストアの店員も続かなかった。
「なんで『普通』になれないんだろ」
ひきこもり、オーバードーズもした。35歳で発達障害の自閉スペクトラム症だとわかった。
「あそこなら可能性が」
主治医に薦められ、石川県輪島市にある共生拠点「輪島カブーレ」の扉をたたいた。
輪島市の上森(うえもり)みゆきさん(39)は、就労型の福祉サービスで雇われた。配食の仕事から始め、今はそば屋で働く。時給895円。両親と同居する実家から通う。週5日、夕方から午後9時過ぎまで、そばをゆでたり、サラダを盛りつけたり、コーヒープリンを作ったり。
ミスしても叱られない。
「一度に二つはできなくても、察する力がすごい。料理が出来上がる時はさっと器を差し出せるよね」と同僚が教えてくれる。
午前中は、施設のジムでボクササイズをして汗を流す。
「今日、きついね」
「あそこのケーキ屋さんおいしい」
「こないだ休んでたけど、大丈夫?」
ジム友ができ、とりとめない会話ができるようになった。
「お疲れさま。煮物持ってきたよ」
夜、そば屋で働いていると、銭湯から出てきたおばあちゃんが声をかけてくれる。
「うれしいな。ありがとう」と笑顔で返す。
落ち込んでも「しゃあない」と気持ちを切り替えることができるようになった。
夢もできた。大谷翔平さんの試合を米国で観戦することだ。
「これからは、楽しく生きたい」
高度経済成長期の価値観を手放してーー。「弱い」とされてきた人たちが寄り合って持続可能な社会をつくる。石川県輪島市での取り組みが全国から注目を集めています。
■障害者を中心に「ごちゃまぜ」…