玉岡かおるさんの「帆神」に舟橋聖一文学賞 雄渾な物語と評価

藤井匠
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 滋賀県彦根市は第16回舟橋聖一文学賞に、作家玉岡かおるさん(66)=兵庫県加古川市=の歴史小説「帆神(ほしん) 北前船を馳(は)せた男・工楽松右衛門(くらくまつえもん)」(新潮社刊)を選んだと発表した。主人公・松右衛門(1743~1812)は江戸期に北前船など海運業の発展を支えた。「この雄渾(ゆうこん)な物語こそ、閉塞(へいそく)感に陥っている日本人の心が求めているものであろう」と評価された。

 同文学賞は彦根市ゆかりの小説家・舟橋聖一(1904~76)の文学世界に通じる優れた作品に贈る。舟橋は彦根市の名誉市民第1号。彦根城築城400年の2007年度に賞を創設した。

 玉岡さんは、1989年、神戸文学賞受賞作の「夢食い魚のブルー・グッドバイ」でデビュー。「お家さん」で織田作之助賞を受賞し、今回の受賞作は新田次郎文学賞にも選ばれた。女性を主人公にした小説を数多く手がけてきたが、「帆神~」は兵庫・高砂が生んだ「海の快男児」に焦点をあてた。

 漁師の家に生まれた松右衛門。菱垣廻船(ひがきかいせん)の船頭として経験を積む一方、和船の弱点だった帆に改良を加え、軽く丈夫な「松右衛門帆」を考案。港湾整備も手がけ、幕府から名字帯刀を認められた。小説では海運に革命をもたらした松右衛門と、彼を育み支えた女性たちの生涯を描く。

 玉岡さんは「人の力ではなしえない、何か超越したものを天に頂きつつ、地では人も必死に、懸命な努力をする。すると、そこには見事な航路が開けることを彼が示してくれた。作品に輝きをいただき、心よりお礼申し上げます」とコメントしている。

 一方、第34回舟橋聖一顕彰青年文学賞は、馬場広大(こうだい)さん(29)=宮崎市=の小説「順風満帆」に決まった。馬場さんは「みかんの木」で織田作之助青春賞も受賞。今回は、鹿児島の南の島などを舞台に、世代を超えて引き継がれていく家族の生命の力が伝わる好編として評価された。(藤井匠)

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