三笘薫のドリブルはなぜ抜けるのか 秘密は「初速」と「上体」にあり

森保ジャパン

堤之剛

 その左足が、世界中のニュースを駆け巡った。

 1日(日本時間2日)のワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグのスペイン戦。

 後半6分。決勝ゴールに結びついた、ゴールライン際ぎりぎりのあのクロスだ。

 サッカー日本代表のMF三笘薫(ブライトン)は笑った。

 「もう1ミリ、(ラインにボールが)かかっていればいいなと。(得点が)入ったあとはちょっと足が長くてよかったなと思いました」

 スペインを苦しめたのは、この美技だけではない。

 第1戦ドイツ戦から再三繰り出している25歳の代名詞。

 ドリブル。

 世界と対峙するために、磨いてきた。

 ピンと背中を張る。

三笘のドリブルに隠された「秘密」とは?

 必ず、ボールは右足の小指の前に置く。

 「1対1には自信がある」

 勝負をかける合図。

 背筋を伸ばし、左サイドでパスを受ける。

 ペナルティーエリア付近までするするっと持ち込み、相手が寄せてきた瞬間。

 一瞬でスピードを上げ、右足の小指でボールを中に切り返す。

 相手は置き去り。

 なぜ、抜けるのか。

 その「秘密」を、本人はこう明かす。

 「初速の速さ」と「相手を誘導する力」

 土台は、幼少期から培った技術にある。

 小学生から高校生までJ1川崎フロンターレの育成組織で力をつけた。

 子どもの頃は「まあ、体が小さかった」。

 背が低かったから、なおさら「技術を磨くしかない」。

筑波大時代に陸上部から学んだ走法

 背筋が伸びた姿勢は、小さい頃からブラジル代表のネイマールやロナウジーニョ、元スペイン代表のイニエスタらを参考にしたものだ。

 「世界のトッププレーヤーは上体が起きて良い姿勢でプレーしているのでまねしてきた」

 そして、相手に触られない場所にボールを置くことを意識。常にボールは利き足の右足の前に置き、アウトサイドでボールをもつ時は小指に当てることを徹底的に繰り返した。

 高2の時、中央から左サイドのアタッカーにポジションを変えた。1対1の練習を増やし、ドリブルを向上させた。

 「足は速い方ではなかったが、初速には自信があった」から、ドリブルを始める瞬間に加速して相手を揺さぶることに心血をそそいだ。

 そうすれば、たとえ抜ききれなくても相手はバランスを崩す。

 足技だけではない。「上体フェイント」という仕掛けも施す。

 足元のボールを見ず、上体だけを動かして相手を惑わせる。相手の重心を自分が進もうとする方向とは逆に「倒す」(三笘)。

 これを瞬時に繰り出し、突破する。

 「下を向いていれば、プレーの選択肢がドリブルしかないので相手が飛び込んでくる。余裕を見せることで脅威になると思う」

 筑波大に進むと、陸上部の指導者にマンツーマンで尻や腹の動きを意識した走法を教わり、切り返しの速さやステップワークを改善した。

 このドリブルをひっさげ、2020年、川崎でJ1新人年間最多タイとなる13ゴールを挙げた。12アシストはリーグトップだった。

 21年に海を渡り、ベルギーでプレー。22年夏にイングランド・プレミアリーグのブライトンへと飛躍した。

 5日(日本時間6日午前0時)の決勝トーナメント1回戦は、過去日本がW杯で1敗1分けのクロアチア。前回も準優勝し、欧州のトップ選手たちがそろう。

 このドリブラーは、日本サッカー界の新しい扉をこじ開けることしか見据えていない。

 「勝つか負けるかで、これからの日本サッカーも変わってくると思う。絶対に勝ちたい」

 高速ドリブルで、世界中のニュースになる。(堤之剛)