金曜の夜だけ、書店に変わる寺 学生がピアノ弾き、プロレスの本並ぶ

杉村和将
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 【岩手】金曜日の夜だけ本堂が書店になる寺がある。盛岡市名須川町の真宗大谷派・専立(せんりゅう)寺。「夜行書店」の貼り紙にひかれて本堂に入ろうとすると、ピアノの音が漏れてきた。

 扉を開けると、正面には阿弥陀如来像。四つのテーブルに本が並んでいる。

 隅にあるピアノを女性が演奏していた。漏れた音は何かのBGMかと思ったが、生演奏だった。

 ピアノのそばにいた男性がこちらに気づいた。「どうぞ、自由にご覧になってください」。本のジャンルはさまざまだが、ノンフィクション系や小説、写真集などが目立つ。

 壁寄りのテーブルにある分厚くて赤い本が目に入った。「永遠の最強王者 ジャンボ鶴田――普通の人でいたかった怪物」。特にプロレス好きではないが、思わず手が伸びた。アイヌ、春画、ゴーストタウン……。街の書店ではあまり見かけない本も並んでいる。

 声をかけてくれた男性は住職の日野岳史乗(ひのおかふみのり)さん(37)。この寺の26代目だという。

 金曜日の夜だけ書店にしたのは昨年6月。きっかけは新型コロナだった。

 世の中は外出の自粛ムード。だったら寺でのんびりしてもらえたら。とはいえ、ただ寺を開放したところで敷居は高い。じゃあ本を置いてみよう。「さわや書店」に相談したところ、委託販売で本を置くことになった。

 約100冊。ほとんどは書店側が選んでいるが、10冊ほどは住職がジャンルをリクエストしている。

 「正直、本が売れなくてもいいんですよね。さわやさんには申し訳ないんですけど」

 なんとなく立ち寄って、好きなように過ごしてくれたらいい。漫画のドラえもんに出てくる、子どもたちが集まる空き地。寺の本堂がそんな場所になれたらおもしろい。

 ピアノを弾いていたのは、岩手大学に通う学生さん。今年の春、ふらりと入ってみると、グランドピアノを見つけた。ちょうどコロナの影響で学内でピアノを弾ける場所が閉鎖されたころ。ここなら音響もいいし、気持ちよく弾けるかも。それ以来ときどき弾かせてもらっているという。

 「そんな感じで使ってくれて、うれしいですよね」(杉村和将)

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