聞き手・滝沢卓
正社員か非正社員かにかかわらず、同じ仕事をした場合の賃金に不合理な差をつけないようにする「同一労働同一賃金」。安倍晋三元首相は2016年の国会で、その実現に「踏み込む」と答弁し、その後に法改正された制度が20年以降順次スタートした。
諸外国の労働政策に詳しい独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎・労働政策研究所長(63)はこの動きについて「大山鳴動したが、ネズミが2匹、3匹出てきたような印象」と手厳しい。ただ、「どの政権、政党でも同じような結果になったはず」とも指摘する。その背景と課題を聞いた。
――パートや有期契約、派遣といった非正社員は雇われて働く人のうち約4割。安倍政権は「1億総活躍プラン」の一環として、非正社員の待遇改善をめざして「同一労働同一賃金」を打ち出しました。当時の政権の姿勢をどう見ましたか。
一般的に労働組合団体からの支持を受けない自民党政権にもかかわらず、正社員と非正社員の格差問題を解決するというメッセージを社会に出した。これは残業時間の規制や最低賃金の引き上げなどとも相まって、政治的にとても大きな意味がありました。しかし、その結果は、大山鳴動したものの、ネズミが2匹、3匹出てきたような印象です。
――どういうことですか。
欧米諸国で言われている同一労働同一賃金の考え方に照らすと、その実現には、長年続いてきた日本の賃金の決まり方を根本からひっくり返す必要がある。ただ、実際にはそうはなりませんでした。
――欧米諸国での賃金と何が違うのでしょう。
賃金を値札に例えてみます。あ…