イランのライシ大統領が国会で就任を宣誓してから5日で1年となる。対米関係をめぐり、改善を模索した穏健派の前政権から、対抗する強硬派へ。米国などによる経済制裁が緩みそうにないなか、ロシアとの関係を深めている。

 2日正午、首都テヘラン中心部にあるバザール(市場)は、日用品や衣類を求める買い物客でごった返し、人びとは肩をぶつけ合いながら行き来していた。コロナ禍で長らく閑散としていたが、一見すると、にぎわいは戻ったようだ。

 だが、そこに明るい雰囲気を見いだせない。

生活に影を落とす物価高

 近くに住むソマイエ・ヘイダリアンさん(38)は「値段が軒並み上がり、野菜や果物を買い控える必要に迫られた」と話す。夫(49)は自動車会社に勤めていたが、勤続年数の制限から3年前に退職。年金だけでは長女(21)を含めた家族3人の生活は行き詰まり、ヘイダリアンさんは2カ月前、ネット通販で衣類を販売する商売を始めた。

 イラン統計局によると、消費者物価指数は7月時点で年率40・5%増。肉や牛乳、パンなど、この1年で2倍以上になった例も多い。

 主婦ザフラ・ヌーリさん(39)は夫(42)や12、6歳の息子2人の4人家族。政府から1人あたり月額300万リアル(実勢レートで約1300円)の補助金が支給されているが、生活は苦しくなる一方だ。「肉や乳製品を我慢することが当たり前になった」と話した。

 不況の背景には、米国のトランプ前政権が2018年に始めた経済制裁がある。イランは財政の柱だった原油の輸出先の多くを失い、金融取引も大幅に制限された。

 制裁の緩和には、イランと米英仏独中ロが15年に締結した「核合意」の復活が欠かせない。合意に基づきイランが核開発を制限する代わりに、米国などの制裁が緩和されていた。しかし、18年に当時の米トランプ政権が離脱し、再び制裁を科すようになった。

 昨年1月にバイデン政権が発足。米国とイランは同年4月に合意の復活を探る間接協議を始めたが、妥協点は見つかっていない。

 さらに、イラン政府が今年5月に輸入業者向けの外貨補助を打ち切ったことが、さらに物価を押し上げた。

 イランでは、対米ドルの実勢レ…

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