被爆地・広島選出の岸田文雄首相が、米ニューヨークで開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議に、日本の首相として初めて出席した。「核兵器なき世界」にこだわりを持つ首相は、中国やロシア、北朝鮮といった核保有国と隣接する厳しい安全保障の「現実」を前に、核廃絶の「理想」に向けてどう道筋を描くのか。
「核軍縮をめぐる国際社会の分断。ロシアの核兵器による威嚇。『核兵器のない世界』を目指す国際的な機運が今、著しく低下している。こうした厳しい状況にあるからこそ、日本の首相として初めて出席し、機運を反転させ、再び盛り上げていく」。首相はニューヨークに出発する7月31日、首相官邸でこう意気込んだ。
首相は就任した昨秋から、NPT会議の出席に意欲を示していた。当初、オミクロン株の流行前に予定された今年1月のNPT会議に向け、官邸幹部に日程を確保するよう指示した。
官邸内では、外相などの閣僚級が参加する会議に首相がわざわざ行くことに慎重な意見も出たが、首相は「俺が行く」と譲らなかった。オミクロン株の流行拡大で訪米が難しくなると、ビデオ演説に切り替え、撮影も済ませていた。
記事後半に、岸田首相が1日にNPT再検討会議で行った演説の要旨があります。
首相がNPTに執着するのは、広島選出議員として「核兵器のない世界」を訴えてきたからだ。首相周辺は「広島、長崎のような惨禍は絶対に起こしてはならないという強い思いを持っている」と語る。
外相を務めていた2016年4月に広島市で開かれた主要7カ国(G7)外相会合では、核保有国の米英仏を含む各国外相の平和記念公園訪問を実現させた。この流れを約1カ月後、オバマ米大統領(当時)の広島訪問につなげた。
ロシアによるウクライナ侵攻も大きな衝撃となった。NPT体制は、核を持つ特権は米ロ英仏中の5カ国に限る代わりに、非保有国には原子力の平和利用の権利が認められ、核保有国は核軍縮交渉の義務を負う。ロシアが核使用を「脅し」として示唆したことは、NPT崩壊につながりかねない危機的事態だ。
それを目の当たりにした首相…
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