生態系保全へ議論開始 リニア・国有識者会議スタート 8氏が意見

床並浩一
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 リニア中央新幹線の静岡工区をめぐり、水資源と同様に懸念される環境保全について話し合う国の有識者会議が8日、東京都内で初会合を開いた。同工区に反対する県側の不安解消を目的にした首相肝煎りの会議で、着工をめざすJR東海に対する助言や指導を視野に入れているが、調整の長期化も予想される。

 県とJRの調整難航で2027年の東京・品川―名古屋間の開通目標が危うくなるなか、仲介に乗り出した国土交通省が設置した有識者会議は13回の会合を経て昨年末、トンネル掘削に伴う大井川の流量減少など水資源問題の解決を求める中間報告をまとめた。県は今年1月、環境保全専門の有識者会議を開催するよう改めて求めていた。

 「中立公平な人選」を求めた県の意向を踏まえ、委員は南アルプスの生態系に詳しい県内研究者ら8人で構成。生態系の研究者が少なく、補充する予定だ。一方、県が「積極関与」を求めた環境省については、議決権のないオブザーバー(傍聴者)にとどまった。

 8日の初会合では、事務局を務める国交省の鉄道局課長が、論点整理について「事務局による提示はよくない」と説明。夏から秋に委員が関係者にヒアリングを行い、現地視察を済ませてから、論点を整え、期限を定めずに議論を本格的に進める方向性が示された。

 「キックオフ」に位置づけられたこの日の議論では、委員が活発な意見を交わした。大井川に生息するヤマトイワナなど水生生物の生態に詳しい「静岡淡水魚研究会」の板井隆彦会長は、多種多様な希少生物について「氷河期からの生物もいる」と説明。「特異な生態系を残すやり方を考えたい」と発言した。

 植物生態学や環境生物学が専門の増沢武弘静岡大客員教授は「(トンネル工事で)生態系がどう壊れるか、どう戻すかを考えたい」と説明。「県民が心配している」として南アルプスの高山帯に広がる「お花畑」を例に挙げ、「影響があるのかないのか。科学的根拠がほしい」と述べた。

 座長に指名された中村太士北海道大教授は「地元の意見をしっかりと聴き、より良い方向へ議論を持っていきたい」と述べた。

 川勝平太知事は会議後、「鉄道局による強いリーダーシップ発揮と環境省による積極的な会議への関わり、サポートをお願いしたい」との談話を発表した。

 県は水資源と環境保全について、国の有識者会議と別に、有識者でつくる専門部会をそれぞれ独自に設置。JR側に説明を求めるなど検証を続ける方針。(床並浩一)

国有識者会議のメンバー

・徳永朋祥 東京大教授(地下水学)

・大東憲二 大同大教授(環境地盤工学)

・丸井敦尚 産業技術総合研究所招顎研究員(地下水学)

・中村太士 北海道大教授(生態系管理学)=座長

・辻本哲郎 河川情報センター河川情報研究所長(河川工学)

・保高徹生 産業技術総合研究所研究グループ長(リスク学)

・板井隆彦 静岡淡水魚研究会長(動物生態学)

・増沢武弘 静岡大客員教授(植物生態学)

※順不同、かっこ内は主な専門分野

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