戦争映像に「感動」する私たち 単純な善悪、止まる思考 大塚英志氏

有料記事2.24後の世界で

聞き手・田中聡子
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大塚英志さん まんが原作者

 ロシアによるウクライナへの侵略が始まって以降、ニュースやSNSを通じて、さまざまな情報が流れてきます。それを見て、感情を強く揺さぶられることもあります。戦時下のメディアに詳しいまんが原作者の大塚英志さんは、そうした「感情の動員」に懸念を示します。なぜ、共感してはいけないのですか?

おおつか・えいじ

1958年生まれ。国際日本文化研究センター教授。近著に「大東亜共栄圏のクールジャパン」。

 ――連日、爆撃された街や家族を亡くした人など、たくさんの映像が流れてきます。

 「ウクライナ側が巧みに『感情の動員』をしていることは確かです。ゼレンスキー大統領の演説、武器を持って立ち上がった若くて美しい女性兵士、子どもが亡くなって泣き崩れる母親――。それらの映像に、私たちは『感動』している。ただそれは、今回の戦争だけの特徴というわけではない。どの戦争にも見られたことであり、かつて私たちの国が加害者となった戦争でもあった光景です」

 ――プロパガンダだ、ということですか。

 「ウクライナに限った話ではなく、戦時下の報道というのはどちらの側がやっていることもプロパガンダです。ゼレンスキー大統領もそうだし、プーチン大統領もそうです。ただ、今、こんなことを言うと非難しかされないでしょうが『ゼレンスキーのプロパガンダ』については冷静に、その手法やもたらしたものの歴史的検証は必要です。いずれにせよ、それらを流す日本の報道もまた、国内に向けた『改憲』や安全保障の転換についてのプロパガンダとして作用する可能性は否定できません」

 「しかしそもそも『プロパガンダ』と言った時、情報操作する誰かと、その被害者の民衆という構図はおかしいと、僕はずっと言っています」

 ――プロパガンダは大衆を誘導するものではないのですか?

なぜ戦争のニュースに感動してはいけないのか。大塚英志さんは、戦時下の日本で人々の心が動員されたことと現在が重なると指摘します。イラク戦争でも起きた善悪の単純化にも、警鐘を鳴らします。

女文字のプロパガンダ、日本の戦時下にも

 「翼賛体制を目指した近衛文…

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    副島英樹
    (朝日新聞編集委員=核問題、国際関係)
    2022年6月9日15時24分 投稿
    【視点】

    大塚英志氏のインタビュー記事の中で、以下の三つの箇所は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからずっと感じていたことを言語化してくれたように思いました。  《涙を流す母親を見てかわいそうだと思うのも、ゼレンスキー大統領の演説に胸が高鳴るの

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