ウクライナ侵攻、平和憲法は岐路? 憲法学者の清水潤さんに聞いた

聞き手・中村尚徳
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 【栃木】ロシアのウクライナ侵攻後、日本国内で軍備増強や改憲を求める声が強まっている。3日に施行75年を迎える「平和憲法」は岐路にあるのか。どう向き合えばいいか。白鷗大法学部の清水潤准教授(39)=憲法学=に尋ねた。

 ――侵攻をどう受け止めましたか。

 第1次大戦後、国際社会は侵略戦争を違法化してきた。国連安全保障理事会常任理事国・ロシアはそうした努力を物ともせず、確立された国際法を公然と破った。21世紀でも起こり得る事態にどう対処すべきか、現実味のある問題として考えざるを得ない。

 ――日本では、米国の核兵器を国内に配備する「核共有」や、敵の攻撃拠点をたたく「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有も論じられています。

 ウクライナ危機に便乗している、と言われても仕方ない面がある。逆に、それが不安定化を招き、武力攻撃を受ける誘因になるとの見方もある。本当に効果があるのか、どれくらい機能するのか、詳細な知識と専門的な予測を踏まえた議論が必要だろう。国民的合意のないまま、冷静さを欠いた状態で、大きな政策転換をやるべきではない。

 ――憲法上の問題はどうでしょうか。

 従来の政府解釈では、いずれも持つこと自体、ただちに違憲にはならない。だが「自衛隊違憲論」に立てば当然違憲となり、「自衛隊合憲論」を採っても「自衛のための必要最小限の実力」といえるか疑問はある。憲法9条から派生した「専守防衛」や「非核三原則」という政策を転換することが望ましいのか、平和主義国家として賢明な選択かという問題もある。

 ――日本はウクライナに防弾チョッキを送りましたが、武器供与に当たるのではとの指摘もあります。

 仮に「自衛隊違憲論」を採っても、兵器には当たらず違憲にはならないだろう。ただ、ロシアから「武器に当たる」と言われてもおかしくなく、ウクライナの戦争遂行を支えるのは間違いない。政治権力を抑制、制限しようとする立憲主義的な価値論や、憲法政策論の観点から可否が論じられても良かったのに、国会での議論もなく決まったことは「非立憲的」だったかもしれない。

 ――自民党は改憲4項目で9条への自衛隊明記案を打ち出しており、侵攻後、安倍晋三元首相らは早期実現を訴えています。

 狙いは自衛隊の法的正当性を高めることだが、確実に言えるのは、自衛隊違憲論の根拠がなくなることだ。ある種の後ろめたさが取り除かれ、違憲・合憲論のパワーバランスが崩れる。現状維持では済まないと見た方がいい。

 安倍政権下の安保法制で集団的自衛権行使が可能になったが、日本の存立が脅かされ国民の権利が覆される明白な危険がなければ、米国の自衛戦争に加わって海外で武力行使をすることはできない。しかし、自衛隊明記が踏み台になり、これまでの解釈変更をもう一歩進める足がかりにされる危険がある。

 ――9条が果たしてきた役割をどう考えますか。

 米国では、憲法の歯止めがどうかかっているかを、裁判を通じて国民が実感できる。しかし、日本では最高裁の違憲審査があまり機能していない。それだけに9条は憲法による政治権力への制約力を国民が一番実感できる立憲主義の象徴のような存在になった。9条が機能したためにできなかったことも多々ある。その9条を今後どうするか、立憲主義的な歯止めは国民世論にかかっている。(聞き手・中村尚徳)

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