岸田文雄政権が看板に掲げる「新しい資本主義」。中でも注目を集めたのは「分配なくして次の成長なし」というスローガンだ。

やまぐち・しんたろう 東京大教授、労働経済学。著書に『「家族の幸せ」の経済学』など。

 過去30年間で日本の経済格差は確かにひろがった。高齢化の影響を差し引いても、所得だけでなく、金融資産の面からみても格差は拡大した(〈1〉)。

 格差と経済成長の関係については、理論と実証の両面において様々な研究がなされてきた。多くの研究が指摘するのは、経済格差を放置すると、教育など人への投資が抑えられ、イノベーションも阻害されるということだ。再分配政策の強化は、長期的な経済成長に不可欠なのだ。

 現代の先進国の経済成長にとって大きな役割を果たすのは、人的資本、アイデア、知識といった無形資産だ。無形資産の充実は、スマートフォンなどの先進技術の開発につながる。しかし、経済格差の存在は、社会全体における人的資本に対する投資を低い水準にとどめてしまう。たとえ、社会全体として十分な富があっても、それが偏在していると、経済的に余裕がない親の元に生まれた子どもたちは、日々の生活に精いっぱいで十分な教育を受けることができない(〈2〉)。つまり、人的資本への投資が不足してしまうのだ。

 教育は経済成長の源泉だ。分配…

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