心と体の性の不一致、性別変更者は1万人超 なお多い医療の課題

熊井洋美
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 心と体の性が一致しないトランスジェンダー。自身の体に強い違和感や嫌悪感を抱く人が、自認する性に近づくための治療を希望する場合には、専門の医療機関で「性同一性障害」(GID)の診断が必要となる。

 日本精神神経学会・性同一性障害に関する委員会が定めるガイドラインでは、十分な理解と経験をもつ精神科医2人が診断にあたることが望ましいとされ、治療は、精神科領域の治療(精神的サポート)と体の治療(ホルモン療法や乳房切除手術、性別適合手術)で構成される。

 性同一性障害は長く精神疾患に分類されてきたが、今年1月に発効となった世界保健機関(WHO)の国際疾病分類の改訂版(ICD-11)では、ジェンダーの多様性は病ではなく個人の状態だという考え方を反映して性保健健康に関連する分野に位置づけた。

 名称も性同一性障害ではなく「性別不合」という案が浮上している。国内でも今後、疾患分類の整理や病名の変更について検討が進められる見通しだ。

性別適合手術が保険適用に ホルモン治療の併用で課題も

 司法統計によると、2004年7月に性同一性障害特例法が施行されてから、同法に基づき性別を変更した人は20年末までに1万人を超えた。

 これまではおおむね右肩上がりで増加傾向にあったが、20年は前年に比べて7割にとどまった。手術費用や入院期間などの関係でタイなど海外での性別適合手術を選択する人がコロナ禍の渡航制限で減少したためと推測されている。

 国内では、18年4月から性別適合手術に公的医療保険が使えるようになった。

 GID学会や患者団体などが長く要望してきたことに加え、心と体の性が一致せずに苦しむ人の存在が社会で広く知られるようになったことや、治療に対応する施設が徐々に増えてきたことも背景にある。

 GID学会は、治療の安全性を確保するために医師や治療施設の認定制度を設けている。

 「安全性、技術、倫理観などで高いレベルにあり、医療や社会の変化に対応した診療ができる」と学会が認めた施設は、岡山大学病院、山梨大学病院など国内8病院(今年2月1日時点)で、認定医は32人(同4月1日時点)いる。

 ただ、認定医や認定施設の数は増えてきたとはいえ、まだ治療を希望する人が広くアクセスしやすい数には届いていない。

 また、性別適合手術は公的医療保険が適用になったものの、手術前にホルモン剤を使って自費で治療していれば「混合診療」となり、手術で保険を使うことができないという課題も残っている。(熊井洋美)

性同一性障害特例法による性別の取り扱いの変更数(認容数)の推移

2004年       97人

  05年      229人

  06年      247人

  07年      268人

  08年      422人

  09年      448人

  10年      527人

  11年      609人

  12年      737人

  13年      769人

  14年      813人

  15年      855人

  16年      885人

  17年      903人

  18年      868人

  19年      948人

  20年      676人

(司法統計から。04年は7月以降)

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