「たび」の空の下、妻を思った万葉びと 国文学者・中西進さんに聞く

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聞き手・上原佳久
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いまから1300年ほど前に編まれた万葉集。当時の人びとの喜怒哀楽を写し取ったことばは、いまを生きる私たちへの「贈りもの」でもあります。国文学者の中西進さん(92)に、万葉のことばを手がかりにして、広く日本文化の基層にあるものを語ってもらいました。

「たび(旅)」と聞いて思い浮かぶイメージは、現代の私たちと万葉びとではだいぶ違ったようです。万葉集の歌には、当時の旅人のどんな姿が記録されているのでしょうか。

 まだまだ新型コロナの終わりが見えません。旅行にも出られず、味気なく感じている人も多いのではないでしょうか。日常では見られない景色のなかに身を置いて、その土地ならではの料理を味わう。現代の私たちにとって、「たび」はとりわけ楽しいもの、わくわくするものですね。

 でも、万葉びとに勧めたら、きっと浮かない顔になったはずです。長く苦しく、生きて帰って来られるかも分からない。そんな過酷さを前提としていたのが、当時の「たび」だったのですね。

 「たび」の語源にはさまざまな説がありますが、食べものをいただくこと、「賜(た)ぶ」からきたというのが通説のようです。道中、食糧は人から施されるものだからというのですが、私は説明として少し苦しいと思っています。

 世界に目を転じてみると、英…

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